背骨が痛いときに考えられる病気とは?原因や治療法などを整形外科医が解説

コラムアイキャッチ

背骨が痛くなる原因とは?

背骨が痛くなる場合、年齢や状況によって考える範囲が異なります。可能性をあげるととても多いので、診察上重要と考えているものを挙げます。

20代前では運動強度が高い場合に分離症(疲労骨折の一種が治らなくなる)やヘルニアになる事もあります。
なんでもない使いすぎの腰痛も多いです。

20代までの腰痛 主な原因
  • 腰椎分離症
  • Overuse(運動など使いすぎ)
  • 急性腰痛症
  • 特発性側弯症
  • 腰椎椎間板ヘルニア

仕事世代の男性の腰痛では、多岐に渡る原因があります。
注目すべきは、肥満でも、るい痩でも腰痛は起こり得ます。仕事の労作での腰痛が診療上は多いです。

仕事世代の男性の腰痛 主な原因
  • Overuse
  • 重量物作業での急性腰痛症
  • 腰椎椎間板ヘルニア
  • 変形性腰椎症
  • 腰部脊柱管狭窄症
  • 内科系疾患(血管系)
  • るい痩、肥満による慢性腰痛
  • 腎臓結石
  • 血管系の腰痛
  • 消化器系の腰痛(癌含む)
  • 椎体椎間板炎

仕事世代の女性の腰痛では、男性と同様に労働状況からくる腰痛は多いのですが、婦人科系の腰痛や産後腰痛の持続など、女性特有の問題があります。

仕事世代の女性の腰痛 主な原因
  • Overuse
  • 重量物作業での急性腰痛症
  • 腰椎椎間板ヘルニア
  • 変形性腰椎症
  • 腰部脊柱管狭窄症
  • 内科系疾患(血管系)
  • るい痩、肥満による慢性腰痛
  • 血管系の腰痛
  • 消化器系の腰痛(癌含む)
  • 椎体椎間板炎
  • 産後腰痛
  • 婦人科系の腰痛

60歳以上の腰痛では、骨粗鬆症の影響が多く出てきます。骨粗鬆症により圧迫骨折をおこしてしまうと遺残する腰痛が残ります。
また、腰部脊柱管狭窄症という年齢を召していくと神経が狭くなる病気での腰部の重だるさを自覚するようになります。

60歳以上の腰痛 主な原因
  • 骨粗鬆症性圧迫骨折
  • 変形性腰椎症
  • 腰部脊柱管狭窄症
  • 腰椎椎間板ヘルニア
  • 消化器系の腰痛(癌含む)
  • るい痩、肥満による慢性腰痛
  • 椎体椎間板炎
  • 血管系の腰痛

背骨が痛いときに考えられる病気とは?

背骨や背中が痛いときの症状の部位

  1. 背中の真ん中が痛い場合
    • 胸椎や腰椎、脊柱起立筋の問題が考えられる。
    • 長時間の不良姿勢や筋肉の緊張による影響。
    • 痛みのタイミングが食前後の場合には、消化器関連の内臓性の疼痛の場合がある。
  2. 背中の少し横が痛い場合
    • 筋筋膜性の痛み(姿勢の影響や筋肉疲労)。
    • 胸椎椎間関節や肋骨の関節に関連した痛み。
    • 腎臓疾患などの内臓関連の痛みも考えられる。

痛みの高さ

痛みの高さ

・骨盤の高さで痛みを出すもの

  • 一般的な腰痛。
  • 腰椎は5個あり、2足歩行の動物では重心が腰椎4-5番の間、または腰椎5-仙骨の間に位置する。
  • 体の動作(お辞儀や伸ばす動作)の中心となり、最も負担がかかる部位。
  • 摩耗しやすく、骨棘や椎間板の損傷によりヘルニアが発生しやすい。
  • これにより加齢変化が進みやすく、腰痛の発症リスクが高くなる。
  • 画像診断では、重心部分における加齢変化が確認されることが多い。

①椎間板ヘルニア

右または左の腰痛で両側に均等に痛みが出る事は少ないです。腰椎椎間板ヘルニアが原因の場合、①椎間板の損傷 ②ヘルニアの脱出による神経圧迫で腰痛も生じます。
通常では下肢の痛みやしびれが現れ、重症例では脚の脱力を伴うこともあります。

②脊柱管狭窄症

脊柱管狭窄症

腰部脊柱管狭窄症は、背骨の神経の通り道(脊柱管)が狭くなることで起こる病気です。
加齢による骨や靭帯の肥厚が原因で、特に背筋を伸ばしたり、後ろに反らしたりすると症状が悪化し、前かがみになると和らぐ特徴があります。症状は腰や脚に現れ、歩いていると痛みやしびれ、重だるさを感じ、次第に歩ける距離が短くなります。
辛くなると、多くの人は膝に手をついて前かがみになったり、座ることで神経の圧迫が軽減され、再び歩けるようになります。

MRI画像は、神経(グレーの神経線維を含む白い水の袋)は黒い圧迫要素で多数の部位で前後に潰されています。
←は強く圧迫されている部位です。

③変形性脊椎症

変形性脊椎症とは、加齢により背骨の関節や椎間板がすり減り、骨の棘(骨棘)ができる状態です。膝の変形性関節症と同様に、軽症では無症状のこともありますが、進行すると慢性的な腰痛が生じます。

椎間板が変性すると緩さが生まれ、異常な動きを防ぐために骨棘が形成されます。これが神経に当たると坐骨神経痛などの神経根症状を引き起こします。
さらに、骨棘が広範囲に及ぶと腰の神経が圧迫され、最終的に腰部脊柱管狭窄症へと進行することもあります。

④圧迫骨折

圧迫骨折は、背骨が外傷や軽微な衝撃で骨折することで発生します。
「いつのまにか骨折」とも呼ばれ、気づかないこともあります。骨折すると、椎体が四角形から台形や三角形に潰れ、背中が曲がる原因になります。特に骨粗鬆症との関連が深く、骨が弱くなることで発症しやすくなります。

圧迫骨折

圧迫骨折挿絵:日本整形外科学会

10年間の椎体骨折の累積発生率は60歳代男性で5.1%、女性で14%。70歳代男性で10.8%、女性で22.2%です。
発生率は女性で高く、加齢とともに著しい上昇を示します。
女性が高くなるのはホルモンと関与が大きいです。

圧迫骨折

この表は骨量の経年的変化を表しています。閉経が大きなファクターで骨量減少しているのが理解できると思います。女性は閉経後とくに10年間にきちんと対応しないと骨折してしまうリスクも高まります。

骨粗鬆症を放置すると、椎体骨折のリスクが高まり、QOLの低下だけでなく死亡リスクも上昇します。椎体骨折は自然に癒合することもありますが、不安定に潰れ続けることもあり、適切な初期固定(装具)が重要です。適切な診断には医療機関の受診が必要で、骨折部の正確な位置特定も不可欠です。

MRIで予後不良因子を判断し、治療法としてコルセット治療、安静、内服、骨粗鬆症治療、重症例では手術が選択されます。

元文献:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版

⑤椎体椎間板炎

椎体椎間板炎は、背骨の骨や椎間板に感染が起こり、骨が脆くなり痛みを引き起こす疾患です。腰痛や背部痛だけでなく、発熱を伴うことが多く、膿が神経を押しやって存在するようになる(硬膜外膿瘍)と、しびれや脱力が生じることがあります。

発症には免疫力の低下が関与し、消化器感染や尿路感染、高齢者、癌、糖尿病、膠原病で免疫抑制薬を使用している人にしばしば発生します。
放置すると感染が悪化し、ショック状態や麻痺を引き起こすリスクがあります。治療は抗生剤の点滴が基本で、膿が大きい場合には手術で除去・洗浄を行います。

背骨の痛みががんの可能性もある?

背骨の痛みがきっかけになり偶然に癌の転移を発見することがあります。単なる痛みだと思っていたら、癌だったと言われる方がいます。整形外科で初めて指摘される場合、癌としては骨転移まで進行している状況となり、stageが悪い場合があります。
骨までの転移は一般的にはstageⅣになります。

・癌のステージとは

癌のステージ

がんのステージはステージ0期からⅣ期まで5段階あり、ステージⅣがもっとも進行している(悪化した)状態です。
ステージの判定はT.がんの大きさ(広がり)N.リンパ節への転移の有無、M.他の臓器への転移、という3つの要素を組み合わせて行われ(TNM分類)、各ステージに応じた治療が行われます。

参照:がんのステージの分類と標準治療 – 免疫療法コンシェルジュ

・癌の原因(原発巣)は

癌の転移の原因で多いものは以下のものです。

表1 各がん種の骨転移患者の割合

原発巣 患者の割合(%)
乳がん 21.6
肺がん 21.2
前立腺がん 7.6
腎がん 7.5
胃がん 6.8
子宮がん 6.6
肝臓がん 5.1
大腸がん 4.0
甲状腺がん 3.5
膀胱がん 1.7
食道がん 1.6
膵臓がん 1.4

参照:転移性骨腫瘍ボード(Bone Metastasis Board : BMB)|Tumor Board|センターの取り組み|神戸大学医学部附属病院 腫瘍センター

癌といっても、治療薬が改善されてきている事、もともとの癌の生存率が違うことから見つかってもきちんと治療すれば推移がよい癌もありますので、「骨転移だったら怖いから検査するのはやめよう」という考えは危ないので、是非相談をしてほしいと思います。

背骨に痛みがある場合の対処法

背骨に痛みがある場合の対処法についてです。
炎症がつよい(触れていたい)状態の場合にはまずは安静を行って患部を休ませましょう。
血流がよくなると痛みが増す事がありますので、炎症が強い時期に「飲酒」や「熱い風呂」は薦めません。消炎鎮痛剤と筋弛緩剤を内服として使用し、炎症を抑えていきます。

マッサージも、炎症がつよい時期に行くと逆効果になることがありますのでおかかりの整形外科医師に相談しましょう。
通常痛みは2週間程度で何とか落ち着くことが多いですが、改善しない場合には、整形外科で検査を行って、原因がはっきりしない場合にはMRIでの検査も検討されるといいです。

背骨の痛みなど病気が疑われる場合は早めに受診すべき

背骨の痛みなど病気が疑われる場合には、以下の場合の時は早期に受診した方がいいです。

  • 痛みがどんどん悪化していっているもの
  • 原因がわからないもの(「原因がわかる」とは、重い物をもって明らかに腰の不調が出てから徐々に痛いとかゴルフスイングでいためたなどが例になります)
  • 休んで横になってじっとしていても周期的に痛みがある腰痛
  • 嘔吐や発熱が続いている、胸が苦しいなど、普通の腰痛と異なる症状も出ているもの

何科を受診すればいい?

まず背中の痛み、腰痛は整形外科にご相談ください。
必要があれば内科に相談などは検討しますので、まずは整形外科から始められる方がいいかと思います。

整形外科での検査方法

整形外科では、レントゲン、CT、MRIといった検査を組み合わせて行います。
原因を分類していきます。

背骨の痛みに対する整形外科での治療方法

背骨の痛みに対しての治療はまず保存療法を優先します。
保存療法が効果が乏しい、または最初から手術を選ぶべき場合において手術治療を積極的に選択します。

保存療法

保存療法とは、外来でできる治療になります。
主に内服治療、リハビリ、注射などです。
内服では患者さんの病状に合わせて副作用が出にくいように考えて消炎鎮痛薬やシップを選びます。

一般的にはロキソニン系(ロルカム、ロキソプロフェン)などを使用します。筋弛緩剤も併用を検討します。

注射ではトリガーポイント注射といって、痛みを実際に出している部位に局所麻酔剤を注入する場合や、仙腸関節ブロックといって骨盤の骨と背骨の骨の継ぎ目に注射して背中の痛みを解除する方法や、神経狭窄症状を伴っている場合には仙骨孔ブロックや神経根ブロックという注射を使い分けたりします。

リハビリはリハビリ室にて行います。「牽引」といって患部を引っ張り安静にする治療や、「低周波治療」を行ったり、慢性期の筋肉が硬い状態なら「ホットパック」なども併用していきます。
リハビリの先生が関節をストレッチしたり、固くなった筋肉を伸長させたりします。

外科的治療

整形外科で比較的早期に外科治療を行う場合の背部痛については、

  • 椎体骨折の予後不良例
  • 脊柱変形による背部痛・腰痛
  • 脊椎転移による背部痛・腰痛
  • 麻痺を伴う背部痛・腰痛

【椎体骨折の治療について】

椎体骨折の治療について

圧迫骨折の急性期―亜急性期で傷みが引かず、除痛目的で行う手術です。
様々な手術がありますが、骨折椎体にセメントを注入する治療が低侵襲で手術時間も少なく普及しています。

【脊柱変形による背部痛・腰痛】

脊柱変形というのは、圧迫骨折や小児期からの側弯症が悪化し、背中が曲がり腰痛がひどくなった状態です。
立っていると横に体が流れたり逆流性食道炎といって、食べ物の通り道も湾曲して圧迫される症状もあります。
成人脊柱変形に対する治療を行った画像の変化を紹介いたします。

脊柱変形による背部痛・腰痛 左写真:画像上ひだり側(体としては右)に曲がっています。
右写真:側面像です。立位で撮影し前に体が倒れてしまっています。
脊柱変形による背部痛・腰痛 左(手術後正面)写真:背骨に多数のスクリューと椎間板の代わりを入れて背中はまっすぐに戻りました。
右(手術後側面)写真:背中のくびれ(腰椎前弯)ができて生理的なカーブになっています。

このような手術を行うと、腰の痛みや姿勢の崩れでまっすぐ立っていられなかった患者様が、長時間立てるようになります。

【脊椎転移による背部痛・腰痛】

脊椎に転移をすると、体重がかかると骨が弱く耐えられないため原発の治療が難航していくと破壊されていくことがあります。
原疾患の治療が一番重要です。

整形外科としては、荷重を全体で受けるために長い金属固定を行って荷重分散をするイメージです。
神経圧迫がある場合にはそこも手術で処理します。

【麻痺を伴う背部痛・腰痛】

“硬膜外膿瘍”といって膿の塊が神経にあたって腰痛が出ていたり、“ヘルニア”や神経が加齢で狭窄する“腰部脊柱管狭窄症”で腰痛が出ている場合には神経の除圧を行ないます。

まとめ

「痛みやしびれがもっと楽になれば、笑顔を取り戻せるのに」そんな患者さんの“悔しさ”を変えたくて診療してきました。

神経(脊髄)が得意で全身の整形外科手術をしてきた専門医として、MRI検査を合わせれば私の能力が最大限発揮でき患者さんに説明できると考えています。
近隣のMRIがなかなかとれない病院やクリニックで困っている方へ、私に相談頂ければ、必要時にMRIを含めた説明でご自身の障害を可視化して説明ができますので、どうぞご検討ください。

背部痛については椎体骨折から、脊椎転移まで多種多様な手術をしてきたので、他院からの手術関連の手術の相談や手術関連のリハビリのセカンドオピニオンで相談にいらしてくださるのも問題ありません。
沢山の難治例の治療経験もありますので完全には戻れなくとも一歩一歩を大事に、“悔しさ”を笑顔に変えていきましょう。

監修

整形外科専門医 Dr.沼口大輔

整形外科専門医Dr.沼口大輔

大学 2006年 東邦大学医学部卒 2025年 早稲田大学 大学院経営管理研究科(MBA)修了
資格、学位 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医 MBA(経営学修士)
職歴
2006年 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修)
2008年~ 東京女子医科大病院整形外科 入局
千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む
2013年 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得
2016年 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得
2016年~ 東名厚木病院 医長
脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる
2019年 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得
2024年~ 千葉県内 救急病院に入職
2025年 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得
学術活動

原著論文1

Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis. 2019/04

症例報告

C5/6 hyperflexion sprainの1例 2018/06

原著論文2

環軸関節亜脱臼の診断におけるトモシンセシス撮影の有効性 2017/08

原著論文3

人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例 2012

学会発表

  1. 強直性脊椎骨増殖症に発生した頚椎骨折に対して、前方固定術を施行した1例 (口頭発表,一般)
  2. MRI矢状断像における椎間孔部での狭窄の分類 (口頭発表,一般) 2013/04/25
  3. 脊椎手術において2本ドレンを留置することは術後の血腫による麻痺を防ぐことができるか (口頭発表,一般) 2013/04/25
  4. 椎体骨折偽関節症例に対するBalloon kyphoplasty施行後の隣接椎体骨折危険因子に関する検討 (口頭発表,一般) 2013/04/25
  5. 肩甲上神経絞扼を認めた肩甲切痕部ガングリオンの1例 (口頭発表,一般) 2012/06/23
  6. 外反母趾術後に出現した足底部痛の1例 (口頭発表,一般) 2010/11/16