骨折ったかなと焦る時ありますよね。
きっと打撲で折れてないだろうと信じて、実は骨折を自ら見逃して(放置して)しまう方がいます。
目次
骨折の原因や症状とは?
骨折の原因は主に以下の3つです。
- 外傷性骨折
明らかな外傷を契機となる骨折 - 疲労骨折
走るなどの使いすぎによって骨におこる小さな亀裂で発症する骨折 - 病的骨折
癌が転移して骨が脆弱になり起きる骨折。これは必ずしも外傷はなくても骨折してしまう
骨折を放置するとどうなる?
骨折を放置すると①骨癒合不良、②変形の残存、③痛みの過剰反応の問題が生じます。
①骨癒合不良
骨折が適切に治癒せず「偽関節」となる状態です。
骨の修復は炎症期・修復期・リモデリング期を経て進みますが、固定不足や体重負荷によって骨折部が癒合できないと、関節のように動き、強い痛みを伴う「偽関節」になります。
②変形の残存
骨が癒合しても不適切な位置で固定されると機能障害を引き起こします。
例えば指が曲がって癒合してしまえば動かしにくく、足首の骨が傾いて癒合すると靴擦れや荷重バランスの悪化による痛みを生じます。
③痛みの過剰反応
CRPS(複合性局所疼痛症候群)が発症することがあります。
これは末梢神経や中枢神経の異常な反応により痛みが慢性化する状態で、骨折後に早期に過度な荷重などが誘因となります。
CRPSは治療が難しく、長期化するリスクが高いため、骨折初期から整形外科医に相談して治療していれば免れる例が多いので放置はやめたほうがいいです。
骨のヒビは放置していれば治る?
骨のヒビというようのは良く聞く言葉ですが、ヒビは骨折の一種です。
転位して(ズレて)いないだけで、管理が悪いと転位する可能性がないとは言えません。
また、ギプスなどで固定をしていても、筋緊張により骨片が引っ張られて位置がずれてしまい手術になってしまうことがあります。骨のヒビといっても、整形外科医師がレントゲンをまだ撮影した方がいいという時には理由があるので、検査を継続してください。
骨折の診断方法
骨折の診断方法には、一般的にはレントゲンです。しかしレントゲンで見えにくい部位もあり、CTやMRIを使用することがあります。
とくに見えにくいものとして、小さな骨で、関節面が多い骨です。
手では舟状骨という骨や、足では距骨をはじめとする足の多くの骨たちです。CTも十分に細かく描出してくれますが、MRIでしか確認できない骨折はあります。
小児領域では、エコー検査で骨折を見ていくものもあります。
整形外科で行う骨折の治療
骨折した場合には、腫れる事はわかりやすいですが、捻挫でも腫れるため判断は難しいです。
骨折治療には保存治療というものと手術治療があります。保存治療というのは、外来でできる治療であり、骨折の場合ですと、ギプス固定やシーネ固定、内服薬、リハビリ、注射などを主に指します。
保存療法
【保存治療が選択される場合】というのは、以下のケースです。
- 骨折部がズレる(転位)が少ないもの
- 過去の研究から角度がついて転位しても機能障害がはっきりせず、許容されるもの
- 手術が適応だが、患者さんが拒否する場合
- 全身状態が悪くて手術を選べない患者さんの場合(麻酔が危険すぎてかけれない病状の方など)
【保存治療の方法】
骨折ではギプス、シーネ、テーピングを使用します。違いが理解しにくいと思うので写真を挙げます。

左)ギプス、中)シーネ、右)テーピング
ギプス
骨折部とその前後の関節を全周性(360度)に固定します。一度固まると水に濡れたら再び硬くならないです。
デメリットとして脱着ができず、腫れが進むと阻血のリスクがあります。また、濡れると蒸れて固定効果が低下するため、シャワー時は防水対策が必要です。
シーネ
脱着可能で、硬い副木を包帯で固定します。シャワー時に外せるため蒸れやかゆみを軽減できるが、ギプスより固定力は弱いです。ギプスからシーネへ移行することもあります。
テーピング
小さな剥離骨折やスポーツ復帰時に使用する。指や足趾の骨折など、シーネが巻きにくい場合にも適用されます。
手術療法
骨折の手術適応は部位や骨折形態によって異なり、学会の議論を経て変化しています。以下の考えが大枠としては一般的と考えています。
- 関節内骨折(関節軟骨を含む骨折)
機能喪失しやすく、手術でできる限り整復し関節機能を保つ。
- 関節外骨折(関節軟骨を含まない骨折)
許容範囲があり、必ずしも手術だけではない。
- 主に荷重がかかる骨(大腿骨・脛骨など)
関節外骨折であっても手術が選択されやすい。
このように、骨折の治療方針は骨の役割や損傷の影響を考慮して決定されます。
骨折が疑われる場合にできる応急処置
骨折が疑われる際は安静(Rest)、冷却(Icing)、
圧迫(Compression)、挙上(Elevation)のRICE処置が基本です。
休ませ、氷で冷やし、包帯で圧迫し、患部を挙上します。
傷がある場合
擦過創は消毒し、皮膚が裂けた場合はすぐ医療機関へ(開放骨折では抗生物質が必要です)。
下肢骨折
体重をかけず移動し、動けない場合は救急車も検討。足趾骨折は歩けることが多いため救急車ではない形で受診を。
上肢骨折
三角巾で安静保持。振動で痛む場合、段ボールを何枚も板にすることで簡易的副木を作成できる。
整骨院では検査ができないため、まず整形外科の受診を推奨します。
よくある質問
骨折をできるだけ早く治す方法はありますか?
骨折の治癒速度は急激に速めることはできません。ただし、遅延治癒や癒合不全のケースでは治癒を促進する治療法が用いられます。
医療現場で使用される代表的な治療法が超音波骨折治療装置(LIPUS:Low-Intensity Pulsed Ultrasound)です。
低強度のパルス超音波を用いることで、骨折の治癒を早める効果が確認されています。
LIPUSの適応は医師が判断し、保険適用のもとで実施されます。
高齢者の骨折を放置するとどのようなリスクがありますか?
高齢者の骨折を放置することは、若年者の骨折とは全く異なります。
救急現場では、独居の高齢者が骨折後に動けず心肺停止となるケースや、脱水が進み骨折治療が遅れる事例を多数見てきました。
また、病院嫌いで治療を拒み、結果的に命を落とすケースや、治療が遅れ大きな手術が必要になることもあります。
80~90歳の転倒では大多数が骨折している可能性があると思って検査結果を隅々まで見ています。
特に独居や自宅の環境次第では命に関わるため、不安があれば事前に整形外科医への相談をしてほしいです。
まとめ
「痛みやしびれがもっと楽になれば、笑顔を取り戻せるのに」そんな患者さんの“悔しさ”を変えたくて診療してきました。
神経(脊髄)が得意で全身の整形外科手術をしてきた専門医として、MRI検査を合わせれば私の能力が最大限発揮でき患者さんに説明できると考えています。
骨折については、キャリアのほとんどを救急病院で骨折患者治療をしてきましたので、骨折については是非どこであっても私にご相談ください。
骨折後の後遺症についても治療してきたので、難治例の治療経験もあります。もちろん一筋縄では進まない事が多い分野です。
日常が完全には戻れなくとも一歩一歩を大事に、“悔しさ”を笑顔に変えていきましょう。
監修

整形外科専門医Dr.沼口大輔
2006年 | 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修) |
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2008年~ | 東京女子医科大病院整形外科 入局 千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む |
2013年 | 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得 |
2016年 | 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得 |
2016年~ | 東名厚木病院 医長 脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる |
2019年 | 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得 |
2024年~ | 千葉県内 救急病院に入職 |
2025年 | 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得 |
原著論文1
Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis. 2019/04
症例報告
C5/6 hyperflexion sprainの1例 2018/06
原著論文2
環軸関節亜脱臼の診断におけるトモシンセシス撮影の有効性 2017/08
原著論文3
人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例 2012
学会発表
- 強直性脊椎骨増殖症に発生した頚椎骨折に対して、前方固定術を施行した1例 (口頭発表,一般)
- MRI矢状断像における椎間孔部での狭窄の分類 (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 脊椎手術において2本ドレンを留置することは術後の血腫による麻痺を防ぐことができるか (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 椎体骨折偽関節症例に対するBalloon kyphoplasty施行後の隣接椎体骨折危険因子に関する検討 (口頭発表,一般) 2013/04/25
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