ゴルフ肘はゴルフをしている人だけがかかるわけものでもなく、ゴルフが原因でない人がすぐに治るわけでもありません。
ただしい知識をつけて対応できるようになりましょう。
目次
ゴルフ肘とは?
ゴルフ肘とは正式名称は、上腕骨内側上顆炎と言います。これは肘の内側の骨の隆起についている筋肉の付着部炎症です。
この筋肉の動きに関与するのは手をグーにして下に曲げる(手関節掌屈)すること、前腕を内旋(前ならえの状態から下に向くように回す動き)です。
ゴルフを行う人で見られやすいために、ゴルフ肘といわれています。発症にはその内側についている筋肉の使いすぎが影響し、ゴルフではスイングで使う筋肉ゆえに起こりやすいですが、それ以外にも投球動作や、モノを持ち上げる時などに痛めやすいです。
テニスのフォアハンドでも使うために障害が出ることがあり、テニス肘と混同されるかと思います。

画像引用:慢性痛治療の専門医による痛みと身体のQ&A | オクノクリニック
ゴルフ肘とテニス肘の違い
ゴルフ肘と、テニス肘というものがあり、それぞれ肘の使いすぎから痛む箇所が対照的です。
共通点は肘での痛みです。違いとして、ゴルフ肘は内側の痛みです。テニス肘は外側の痛みです。
以下に対比しました。
項目 | ゴルフ肘(内側上顆炎) | テニス肘(外側上顆炎) |
---|---|---|
痛みの部位 | 肘の内側(内側上顆) | 肘の外側(外側上顆) |
主な原因 | 肘の使い過ぎ | 肘の使い過ぎ |
関与する筋肉 | 円回内筋 尺側手根屈筋 |
撓側手根伸筋 |
発症頻度 | テニス肘より少ない | 外来患者の1~3% ゴルフ肘より多い |
痛みが出やすい動作 |
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ゴルフ肘の症状
ゴルフ肘(内側上顆炎)は、肘の内側に痛みが生じる障害です。
特に手首を内側に曲げる動作や物を握る際に痛みが強くなります。
以下のような症状が特徴です。
- 肘の内側の骨付近の痛み
- 物を掴むときに肘の内側が痛い
- ゴルフスイングや投球時(手関節を掌屈するとき)に痛み
- 手首を曲げたり回したりすると痛みが増す
円回内筋(前ならえ姿勢から手のひらを下に向けていく内旋の動作)と尺側手根屈筋(肘をのばした状態でグーにして拳を下に曲げる)という筋肉の付着部が主な問題点であり、その筋肉を伸長させる動作をすると痛みが出現します。
つまり、手のひらを上に向けていく動作(前腕外旋)や握った拳を下に曲げる(掌屈)がそういった姿勢になります。
ゴルフ肘が治らない理由は?
ゴルフ肘の主な原因は、前腕の屈筋群の使い過ぎによる腱の微細損傷ですが、「痛みと回復を繰り返す」ことで、腱の変性が進行し痛みの神経が増えてしまうことが知られています。
この拗れた知覚過敏の状態になると、軽い動作でも強い痛みを感じるようになり、回復にさらに時間がかかってしまい慢性化となります。
痛みが続く場合は早めに整形外科を受診してリハビリの先生(PT)と日常生活の動作の確認、悪化行動からの回避を進める必要があります。筋肉の機能を考えて、仕事の作業の手の位置を変えるだけ、持ち方を工夫すると回復していく例もあります。
まずは専門家に見せる事が治るための第一歩です。
ゴルフ肘の原因
ゴルフ肘は慢性的な同じ作業での筋肉の負担で生じます。イメージとしては、強く握って、インパクトからその後に手関節を下に返すような動き(ゴルフ、テニス、野球)などで起きますが、他にもキーボードの使用頻度が多いなどの手の動きでも誘発されることがあります。
なりやすい人
主に30~50代の男性に多い傾向があります。
ゴルフ肘の検査・診断
ゴルフ肘が疑わしいと判断する方法には、圧痛の部位と、ゴルフ肘のテスト(誘発テスト)があります。
- 圧痛点は肘の内側の触れる骨隆起(内側上顆)を押したときの痛みがあるかどうか
- 誘発テストは、前ならえの姿勢から肘を伸ばして拳を握り、拳に力をかけて曲げてもらい爪が自分の顔側にみえるようにします(手関節を掌屈させる)。そこで他の人の手で、手関節を逆向きに力比べをして反らせていくときに、肘の内側に痛みがでる場合はゴルフ肘が疑わしいです。
- 検査は、レントゲン検査では骨病変による別の病気かの確認をします。MRIでは炎症の部位把握を主に行っていきます。
ゴルフ肘の治療方法
初期の治療としては、局所の安静、薬物療法、装具療法、理学療法を行います。慢性期で痛みをともなった神経の拗れた痛みの段階では手術をすることもあります。
局所安静とは、簡単に言えば「つかわないようにする」です。その患者さんの痛みが出る日常動作や仕事の動作を確認して、その動きを他の筋肉で代償できないかを考えます。
「肘を伸ばして、力強く握って、持ち上げる」動作が痛みの誘発をしやすいので、持ち上げ方を工夫して当該筋肉でない方法で解決していきます。
薬物療法では、消炎鎮痛剤の内服を始め、外用剤を用いて炎症を抑えます。注射で対応するときには、炎症を収めるのに有効なステロイドと、局所麻酔剤を注射することもあります。
理学療法では、筋肉のストレッチに加えて、電気治療や超音波治療を合わせることで疼痛を下げていきます。手術については手術になる事は少ないですが内視鏡や直接切開を用いて、問題部位の切除手術をする事が多いです。
近年スポーツ選手を中心に自分の血液からとれた組織修復の力を用いて、炎症抑制、傷んだ組織の再生の目的で肘周囲の腱組織にPRPという注射を行って切らないで治す選択肢が増えてきました。
ゴルフ肘は自分で治すことはできる?
軽度のものは自分で治せる可能性はありますが、主に重量物の作業やある負荷のかかるプロジェクトが終わるなどの変化があったときなどです。
安静がとれることで改善するきっかけが得られるとうまくいきます。軽度ならば内服やシップ、痛い部位のマッサージ効果で改善することはしばしば経験します。
治らないゴルフ肘を放置するリスク
ゴルフ肘の治癒には個人差があり、適切なケアをしないと長引くことがあります。
特に、痛みが続くのに受診せず、肘を使い続けると、炎症が慢性化し治りにくくなってしまいます。
ゴルフ肘のストレッチ
原因となっている筋肉の負荷を減らすことをします。痛みがでないように、痛みが出現する動作を避け、重量物の運搬を避ける生活指導といった事も重要です。
自分で調べて行うよりも、医療機関でリハビリを受けながらストレッチ程度、回数などを確認されるほうがいいです。仕事や家事ではなく、スポーツ原因の場合にはスポーツの一時休止も指導します。
まとめ
「痛みやしびれがもっと楽になれば、笑顔を取り戻せるのに」そんな患者さんの“悔しさ”を変えたくて診療してきました。
全身の整形外科手術をしてきた専門医として、MRI検査を合わせれば私の能力が最大限発揮でき患者さんに説明できると考えています。
近隣のMRIがなかなかとれない病院やクリニックで困っている方へ、当クリニックで検査と説明、治療をどうぞご検討ください。肘の障害は日常の生活に直結したものが多く、早くに介入しリハの先生と行動を変化させることでふせげる悪化も沢山ある領域です。
救急病院にて肘周囲骨折を手術したり、テニス肘やゴルフ肘の方の治療を行ってスポーツ復帰できるようにサポートなどもしてきました。
難治例の治療経験もありますので、生まれつきの障害や大人で過去の手術後の機能回復が厳しい方もあきらめずに一歩一歩を大事に、“悔しさ”を笑顔に変えていきましょう。
監修

整形外科専門医Dr.沼口大輔
2006年 | 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修) |
---|---|
2008年~ | 東京女子医科大病院整形外科 入局 千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む |
2013年 | 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得 |
2016年 | 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得 |
2016年~ | 東名厚木病院 医長 脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる |
2019年 | 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得 |
2024年~ | 千葉県内 救急病院に入職 |
2025年 | 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得 |
原著論文1
Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis. 2019/04
症例報告
C5/6 hyperflexion sprainの1例 2018/06
原著論文2
環軸関節亜脱臼の診断におけるトモシンセシス撮影の有効性 2017/08
原著論文3
人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例 2012
学会発表
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