整形外科では、骨や関節、筋肉、靭帯、神経などの病気やケガを診療します。
受診時には主にレントゲン撮影が行われ、骨折や骨の形態異常(骨腫瘍や関節のズレなど)の検査に役立ちます。また、レントゲンの特徴として、関節を動かしながら撮影することで靭帯の張力や関節の動きを確認できる動的撮影が可能です。
一方で骨よりも軟らかい組織の状態を詳しく調べることはできません。例として、腫瘍、関節軟骨の状態、靭帯の損傷や神経の圧迫などは判断できません。
これらの問題を把握するために、現在ではMRI検査が効果的に利用されています。
目次
整形外科でのMRI検査で何が分かる?
MRIは(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)の略称です。 強い磁石と電波を利用して、体の様々な断面を撮像する検査です。
難しい説明は避けますが、CTやレントゲンといった検査では映し出せなかった“軟らかい組織、臓器や薄い構造の損傷を可視化できる”というメリットがあります。
軟らかい組織、臓器というのは、首や腰ならば神経、ヘルニアや腫瘍による圧迫具合です。
膝や肩といった各関節では、関節内での液体貯留の具合や、切れた筋肉や靭帯、軟骨の状態評価ができます。
また、レントゲンやCTでは確認できない骨挫傷という骨折の一歩手前の状態である内部のダメージも評価可能です。単なる打撲ではなく骨挫傷では治療方法やリハビリが変わる事もあります。
MRI検査を受けるメリット
MRI検査のメリットは、“軟らかい組織、臓器や薄い構造や損傷を可視化できる”ことです。
レントゲンやCTスキャンは、軟らかい組織を写すのが苦手です。具体的には骨の線をくっきり描出するのはMRIでは難しいが、骨内部の構造や、軟らかい組織の代表である筋肉内の病変や靭帯の効き具合、神経の状態が可視化できます。
MRIにより、担当医は手術に進むべきかどうかの判断が明確になったり、術前の状態把握の精度が高くなります。
その結果、診断の正確性が増します。手術前に内部を想定できることは治療のメリットもあります。
MRI検査でわかる整形外科の病気
MRI検査でわかる整形外科の主な病気は以下の通りです。
- 頚髄症
- 頸椎・胸椎・腰椎椎間板ヘルニア
- 腰部脊柱管狭窄症
- 頸椎後縦靭帯骨化症
- 胸椎黄色靭帯骨化症
- 脊髄腫瘍
- 骨軟部腫瘍
- 疲労骨折
- 四肢不全骨折
- 関節・骨・筋肉・靭帯の損傷
- 半月板損傷
- 筋肉・骨の感染症 など
整形外科でMRI検査を受けられない方
MRI検査は、磁石の中に体を入れて検査すると考えてください。自分の体の中に金属が留置済みの方には注意が要ります。
大概の留置金属はMRI対応金属(非磁性体)というもので、検査は問題ないです。
万が一体内で金属組成に差があり、磁場に反応して重要臓器が損傷されるような取り替えしがつかない事が起きてはいけないので、以下のようなケースでは基本的に大事をとってMRIが受けられないものがあります。
MRIが基本的に難しいケース |
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ペースメーカーや除細動器は原則禁忌です。リード部分の発熱や磁場による誤作動の可能性があります。
近年ペースメーカー設定を変えると撮影できるケースや、1.5テスラという機能を最新よりは落とした撮影環境なら完全禁忌ではないとも言われていますが、安全な条件が複雑なのでやむを得ない場合を除いて一般的には勧めない状況です。
また妊娠とMRIについては、胎児に対しての安全性、とくに奇形の可能性が指摘報告されています。
奇形になるリスクが高いのは器官を形成する16週までですので、必要時それ以降ならば検査できるとしている施設もありますが、私は極力大事をとって避けた方がいいと思います。
MRI検査を受けられない可能性のある方
絶対に検査不可能ではないが、金属がある場合には確認しないと問題あるケースもあります。
ではMRI対応できる、できない金属とはなんでしょう。
MRIできない金属=”磁性体” | MRIできる金属=”非磁性体” |
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“磁性体”の代表は、“鉄、コバルト、ニッケル”です。
逆に、多くの人体に留置する医療用の金属は“チタンをはじめとする非磁性体”です。
昔の治療で「どんな材質の金属を手術で体内に入れたのか不明」という場合が問題になります。
では具体例です。MRI検査が受けられない可能性があり確認が必要な場合については、以下の通りです。
MRI検査が受けられない可能性があり確認が必要な場合 |
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消化管クリップについては、一定期間たつと便とともに流れてしまうので、1か月ほど経過すれば検査可能とする施設もあります。ステントも内皮化といって安定する時期を検討します。一定期間という表現は担当の医師や病院に差がありますので各医療機関に確認してください。
心臓の弁膜症手術については、機械弁といって、人工的な弁は撮影が難しいことがあります。一般的には1970年以前の製品には磁性体が含まれている弁もあるので検査ができないことがあります。
整形外科の金属については、ほとんどがチタン製や非磁性体の金属でインプラントが出来ており問題がないです。しかし十数年前で記録がなく何の金属なのかわからない手術例や、海外で手術されて金属材質が不明な例は、検査ができないことがあります。
閉所恐怖症の方は“オープンMRI”という圧迫感が少ないMRIがあります。また入れ墨、タトゥーがある人は、インクに金属成分があり発熱による火傷や絵が乱れる可能性があります。
病状が切迫している時はリスクを理解頂いた上で同意できるか確認して行う施設もあります。
参考:注意事項:MR検査|放射線診断科|独立行政法人国立病院機構 京都医療センター
当院におけるMRI検査注意事項(体内金属)|検査受診の皆さまへ|健診会東京メディカルクリニック
MRI検査室に持ち込めないもの
MRI室には以下のものは持ち込めません。
①体に装着している金属 | ②持ち込みが無理な持ち込み物 |
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整形外科でのMRI検査の流れ
検査だけでMRIの為に来院するケースを想定して流れを説明します。
来院されますと、以下のような流れが一般的です。
- 受付
- 着替え
- 金属探知機、注意事項確認
- 体位固定、検査開始
- 退室、着替え
このような流れで終了します。もしもMRI結果説明が当日の場合には、検査後に担当の医師の外来に行く事になります。
MRI検査の所要時間
MRI検査は現在広く導入されている3テスラでのMRIでは、撮影時間が15~20分、前後の着替えなどを含めて30分以内で終わるというのが一般的です。
検査については、レントゲンのように瞬間的に撮影できるものではなく、注意点確認や着替え、体位固定など時間がかかります。
それゆえ一日に撮影できる人数に限りがあり、当日検査がすぐできるという状態かはそれぞれの病院の状況により異なります。
MRI診断の検査にかかる費用
費用は状況によって異なります。以下に表にまとめましたので参考にしてください。
ただし、保険点数が変わると医療保険適応は値段が不変ではありません。皆さんが病院やクリニックでかかるときは医療保険適応になる場合を想定されるといいです。
MRI検査の費用比較
項目 | 自由診療 | 医療保険適用 |
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費用 | 20,000円~50,000円 | 3割負担:5,000円程度 1割負担:1,800円程度 |
対象 | 個人理由での希望時 例:人間ドック |
医師が必要と判断した場合 |
負担 | 100%自費 | 国や自治体が一部負担 |
MRI検査に関するよくあるご質問
MRI検査をしている最中に寝てもいいですか?
MRI検査の最中には、寝てしまっても問題がありません。
頭や体をバンドで固定して15分から20分ほどの検査をしているのでよほどの体勢の変化がない限り、寝たまま検査は可能です。
整形外科でMRI検査を受ける前に食事は可能?
整形外科のMRIにおいて、食事を制限して撮影する場合はあるかと言いますと、造影剤を用いたMRIを除いてはありません。
食事と画像がよく問題になり制限するのは、消化器系の検査や、腸が動くと画像が見えにくい子宮などのMRIを撮る担当科の検査になります。造影剤の場合は、気持ち悪くなる事も考えて、食事抜きでの検査となります。
MRIは無害なのですか?
MRIはレントゲンやCTと異なり、被爆という問題がない点では間違いなく害が少ないです。
しかし一方で、課題はあります。騒音、発生する熱(検査の後少し汗をかいている)、わずかな神経症状(検査後少し手足が痺れる人がいる)があるので全く無害とは言えませんが、わずかなものでほとんど無害と言えるかと思います。
同意書に目を通して、磁性体金属などがなければ安心して撮影していただける検査であると思います。
MRIについての相談は沼口までどうぞ
「痛みやしびれがもっと楽になれば、笑顔を取り戻せるのに」そんな患者さんの“悔しさ”を変えたくて診療してきました。
神経(脊髄)が得意で全身の整形外科手術をしてきた日本整形外科学会認定専門医として、MRI検査を合わせれば私の能力が最大限発揮でき患者さんに説明できると考えています。
近隣のMRIがなかなかとれない病院やクリニックで困っている方へ、検査と説明をどうぞご検討ください。
他院からのセカンドオピニオンで相談にいらしてくださるのも構いません。沢山の難治例の治療経験もありますので完全には戻れなくとも一歩一歩を大事に、“悔しさ”を笑顔に変えていきましょう。
監修

整形外科専門医Dr.沼口大輔
2006年 | 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修) |
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2008年~ | 東京女子医科大病院整形外科 入局 千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む |
2013年 | 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得 |
2016年 | 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得 |
2016年~ | 東名厚木病院 医長 脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる |
2019年 | 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得 |
2024年~ | 千葉県内 救急病院に入職 |
2025年 | 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得 |
原著論文1
Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis. 2019/04
症例報告
C5/6 hyperflexion sprainの1例 2018/06
原著論文2
環軸関節亜脱臼の診断におけるトモシンセシス撮影の有効性 2017/08
原著論文3
人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例 2012
学会発表
- 強直性脊椎骨増殖症に発生した頚椎骨折に対して、前方固定術を施行した1例 (口頭発表,一般)
- MRI矢状断像における椎間孔部での狭窄の分類 (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 脊椎手術において2本ドレンを留置することは術後の血腫による麻痺を防ぐことができるか (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 椎体骨折偽関節症例に対するBalloon kyphoplasty施行後の隣接椎体骨折危険因子に関する検討 (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 肩甲上神経絞扼を認めた肩甲切痕部ガングリオンの1例 (口頭発表,一般) 2012/06/23
- 外反母趾術後に出現した足底部痛の1例 (口頭発表,一般) 2010/11/16