神経ブロックとは?種類と適応疾患、副作用など整形外科医が解説

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神経ブロックとは

神経ブロックとは、疼痛や異常感覚の原因となる神経経路に対し、局所麻酔薬、ステロイド、神経破壊薬などを用いて、その伝達機能を一時的あるいは永続的に遮断し、疼痛の緩和、運動制限の改善、交感神経の遮断、あるいは診断的評価を行う処置*です。

*日本ペインクリニック学会ガイドライン

簡略化します。体に起きている痛みや異常な感覚の中で、神経の炎症や過剰興奮状態によっておこる症状については、神経に向かって直接薬液などを注入して痛みの経路を遮断し楽にする治療です

慢性疼痛患者の94%が、神経ブロックによる痛みの軽減があるとされています。機能の改善や気分の向上も報告されています。

Jacobs H, Nerve Blocks Lead to Improved Quality of Life. Pract Pain Manag. 2019;19(5).

神経ブロックの仕組み

神経ブロックはどんな人におすすめ?

神経ブロックには絶対適応(つまり神経ブロックしか治療法がない)という場合はないので、相対的にこういう方には向いているといった適応の仕方となります。効果には個人差や症状の全ては取れないがそれを理解できているかどうかは大きなポイントになります。「やってみなきゃわからない」部分が少なからずあります。

【ブロック治療を考えた方がいい方】

  • 痛みの原因がブロック注射で改善できる可能性があると医師が言っているとき
  • 注射にもある程度耐えられる方
  • 内服をはじめとした治療の限界を感じている、効かない慢性的な痛みの方
  • 入院や長期自宅療養など、長期医療に時間をかけていられない方
  • 手術をなるべく避けたいが、痛みが強く生活に支障が出ている方
  • 治療の効果持続に限界があり、個人差があることを理解できる方

【ブロック治療の実施はすすめない方】

  • 注射はとくに苦手
  • 麻酔薬にアレルギーがある
  • ブロックだけが絶対に効く方法だと信じてやまない方
  • “絶対”に効くというならば、やりたいと思っている方
  • 血液サラサラの薬(抗血小板薬、抗凝固薬)を内服している

神経ブロックの種類と適応疾患

神経ブロックは慢性疼痛治療に対するインターベンショナル治療の主といえます。インターベンショナル治療は主に以下のように分類されます。

硬膜外ブロック、交感神経ブロック、神経根ブロック、腕神経叢ブロック、高周波熱凝固・パルス高周波法、トリガーポイント注射があります。

  • 上肢の症状に主に行うことがある注射
    • 頸椎神経根ブロック
    • 腕神経叢ブロック
    • 交感神経ブロック(星状神経節ブロック)
    • トリガーポイント注射
  • 下肢の症状に行う事が多い注射
    • 仙骨硬膜外ブロック
    • 腰部硬膜外ブロック
    • トリガーポイント注射

硬膜外ブロック

硬膜外ブロックで治療する場合は、坐骨神経痛で悩んでいる方が対象になります。坐骨神経痛に対する硬膜外ブロックという注射には、仙骨硬膜外ブロックと、腰部硬膜外ブロックがあります。
違いは刺入する高さの差です。

仙骨硬膜外ブロックは、尾骨と仙骨の接続する部分にある神経に繋がる孔(仙骨孔)に注射します。
イラストではSacral hiatusという表記の部分になります。この注射のイメージは腰の注射ではなく、お尻の割れ目のやや上から注射して、硬膜外腔を伝って問題の神経の症状を改善させる形になります。

硬膜外ブロック

腰部硬膜外ブロックは、腰の椎体と椎体の間からアプローチして硬膜外に注射を行います。
どちらも硬膜外に注射しますが、針を刺す高さが違います。

硬膜外ブロック

画像引用:第1回 無痛分娩の麻酔の適応、方法、禁忌、外来での説明 | ナース専科

交感神経ブロック

交感神経とは体を「戦うか逃げるか」の状態に導く神経で、対をなす神経は体をRelaxにする副交感神経です。
交感神経の作用は、太い重要臓器の血管については心拍数が上がったり、血圧が上がることで臓器血流を担保します。逆に末梢血管というところには血管を収縮させて血流が減ってしまいます。

痛みの悪循環に、この末梢組織での交感神経の興奮による血管収縮が影響を及ぼすと言われています。
過剰興奮している交感神経を改善して組織血流を増やして炎症を抑える目的で、交感神経ブロックを行います。上半身の不具合に対して、星状神経節ブロックがあり交感神経ブロックに該当します。

神経根ブロック

神経根ブロックは外来で行う保存治療(手術を除く治療)において、障害神経がどの神経かを確認する診断の要素であるとともに、疼痛に対する外来の最終手段とも言われています。
上肢疼痛に対しての頸椎の神経根ブロックと、下肢疼痛(坐骨神経痛)に対しての腰椎の神経根ブロックがあり、腰椎の神経根ブロックが行われることが多いです。

1本ずつ神経を分けてブロックできることが特徴であり、痛みを出しているであろう疑わしい神経根に対して直接神経に針を刺して治療薬を神経または神経の周囲に注入します。

腕神経叢ブロック

腕神経叢とは、頸椎から分岐する神経が複雑に交差する部位で、頸から鎖骨の下を通って腋の下までの距離を一般的に指します。
そこでは、腕に伸びていく神経が存在しており、頸が痛くて腕全体がしびれる、痛みでつらいといった症状に対して、腕神経叢の部位を選んで注射する方法があります。

腕神経叢ブロック

腕神経叢ブロックは大きく4つに分かれます。
一番首に近いところが斜角筋ブロック(Interscalene block)と言います。腕全体ではあるけれど、小指側は効果がありません。
続いて鎖骨上ブロック(supraclavicular block)や、鎖骨下ブロック(Infraclavicular block)と区分けされます。これらは比較的腕全体に効きますがどの神経が悪いかはわかりにくいです。最後は腋窩ブロック(axillary block)でやや親指側は効果が薄い状態と言われています。

参考:https://www.researchgate.net/figure/dealized-brachial-plexus-Various-approaches-define-individual-brachial-plexus-blocks-and_fig4_24197528

ブロック名 解剖学的位置 特徴
斜角筋間ブロック(interscalene) C5〜C7*レベル(斜角筋間) 首にエコーを行い注射し問題の神経を分けて注射ができるので、原因の神経を調べる事にも有効です
鎖骨上ブロック(supraclavicular) 鎖骨上窩 鎖骨の上からの注射ですが、神経を分けてブロックはできません
鎖骨下ブロック(infraclavicular) 鎖骨の下、腋窩より上 鎖骨の下からのブロックですが、神経を分けてブロックはできません
腋窩ブロック(axillary) 腋窩部 脇毛の生えている部位のあたりに注射しますが、神経を分けてブロックできません

*Cというのは頸椎の番号です。C5は「頸椎5番の神経」という意味です。

トリガーポイント注射

トリガーポイントというのは、腰や肩、首などに強く痛みを感じる点の事で、指で患者さんが指し示せる部位です。筋肉内に硬いしこりのような部分(緊張帯)があります。その部位がトリガーポイントと考えられています。注射では圧痛点があるところに局所麻酔薬を注射します。対処のひとつであり、根本解決ではないのですが繰り返す事で傷みを除去する効果があります。

高周波熱凝固・パルス高周波法

目的とする神経に針をすすめて、針の先端に70~90度の熱を発生させ、神経を部分的に破壊することによって鎮痛を得る治療です。熱の発生原理は電子レンジと同じで、300~3000Hzの高周波電流を用います。60~150秒程度の通電でタンパクが変性・凝固し神経伝達が抑制されます。
仙腸関節痛に用いる場合と、椎間関節性腰痛に対して、神経根ブロックに対して用いる事があります。

破壊と聞くと少々怖いと思いますが、ランダム化比較試験や、メタアナリシスといって、統計的にきちんと分析もされています。
その結果、高周波熱凝固ブロックは腰下肢痛に対して有効な治療法であることが示されています。

神経ブロック治療の流れ

今回は整形外科でブロック頻度が高い、腰椎神経根ブロックについて説明します。

  1. 体調確認、ブロック注射希望の確認
  2. 同意書に記載
    全医療機関では実施しないが、同意書にリスクや見通しなどを記載
    造影剤のアレルギーがあるかなどを確認するのが一般的
  3. 診察室から透視室に移動
  4. うつぶせになり血圧や酸素飽和度などの測定
  5. 体位を調整し、穿刺部をレントゲン画像を参考に確認、印をつける
  6. 消毒
  7. 穿刺部に麻酔をする
  8. 神経に針をすすめる、適切な位置に当たると痛みが臀部から脚に放散
  9. 針の位置を撮影、造影剤を入れると神経が画像上に映り、(レントゲン)撮影する
  10. 注射液を神経に注入
  11. 針を抜く、消毒し被覆材をあてる
  12. 20-30分安静管理(血圧や酸素飽和度の測定)
  13. 脱力ないか確認し、帰宅

使用薬剤について

使用薬剤については、局所麻酔剤と、ステロイドという薬を使用することが一般的です。それ以外には、ノイロトロピンという注射薬も適宜混ぜることがあります。

神経ブロックの効果が持続する期間

ブロックの効果時間については個人差があるので明言ができません。

神経ブロック注射は痛い?

ブロック注射は神経“根”ブロックを除いて、そこまで強い痛みではありません。直接神経に穿刺するものと、浸潤させて麻酔を効かせるという差があるのと、神経根ブロックで行う神経節(神経根が膨らんでいる部位)は痛みにとても過敏だからです。

神経ブロックの副作用・合併症リスク

上半身、下半身のブロック注射では一般的に出血、感染、神経損傷、血管穿刺、局所麻酔中毒が合併症であがります。しかし、このような可能性は低く、超高齢者の場合には体が過敏な反応をする方もいるので迷走神経反射(一時的な貧血のような症状)が出ていないか気を付けるようにしています。

神経ブロック治療の費用

神経根ブロックを例にします。仮にブロックを3割負担で初診で行う事があるとします。神経根ブロックにはX線透視機械が必要です。
その場合の費用は概算で、

費用=初診料+神経根ブロック+X線透視加算代
=860円+4500円+1500円
=6860円

ブロックの種類によりレントゲン不要なものは安くなります。
また、ブロックの費用自体は、国の決めた手技に対する保険点数ですので基本的には一律です。その他のブロックの金額については適宜ご自身がおかかりのクリニック窓口で相談ください。

まとめ

ブロック注射は、ペインクリニックや多くの整形外科医が外来治療で頻繁に行う治療になります。
患者さんの辛い痛みやしびれが注射一本で一気に取れたときの爽快感は忘れられないものです。

注射なので合併症などは気をつけねばなりませんが、エコーを用いると近年ではより安全に注射ができるようになりました
患者さんも良くなるために少し痛みが伴う治療ですが、上半身の痛みや腰痛、臀部から下肢の痛み、しびれが薄らいだり辛い部分の領域が小さくなったりすることがあるので、是非相談いただけますと幸いです。
薬では取れなかったしびれや痛みが一気に引くこともあります。

監修

整形外科専門医 Dr.沼口大輔

整形外科専門医Dr.沼口大輔

大学 2006年 東邦大学医学部卒 2025年 早稲田大学 大学院経営管理研究科(MBA)修了
資格、学位 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医 MBA(経営学修士)
職歴
2006年 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修)
2008年~ 東京女子医科大病院整形外科 入局
千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む
2013年 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得
2016年 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得
2016年~ 東名厚木病院 医長
脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる
2019年 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得
2024年~ 千葉県内 救急病院に入職
2025年 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得
学術活動

原著論文1

Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis. 2019/04

症例報告

C5/6 hyperflexion sprainの1例 2018/06

原著論文2

環軸関節亜脱臼の診断におけるトモシンセシス撮影の有効性 2017/08

原著論文3

人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例 2012

学会発表

  1. 強直性脊椎骨増殖症に発生した頚椎骨折に対して、前方固定術を施行した1例 (口頭発表,一般)
  2. MRI矢状断像における椎間孔部での狭窄の分類 (口頭発表,一般) 2013/04/25
  3. 脊椎手術において2本ドレンを留置することは術後の血腫による麻痺を防ぐことができるか (口頭発表,一般) 2013/04/25
  4. 椎体骨折偽関節症例に対するBalloon kyphoplasty施行後の隣接椎体骨折危険因子に関する検討 (口頭発表,一般) 2013/04/25
  5. 肩甲上神経絞扼を認めた肩甲切痕部ガングリオンの1例 (口頭発表,一般) 2012/06/23
  6. 外反母趾術後に出現した足底部痛の1例 (口頭発表,一般) 2010/11/16