神経根ブロックとは?効果・痛み・副作用・費用を解説【整形外科専門医監修】

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神経根ブロックは、神経に関しての様々な病態に対して行う事があります。整形外科とペインクリニックで行われています。
保存治療(手術ではない、外来でできる治療)の中で最も強力な疼痛コントロールの手技です*。
しかし、治療には適応と限界がありますので、紹介させていただきます。

参考:*大羽ら、東北整災誌,Vol.59.No.1(2016)

神経根ブロックとは

神経根ブロックは外来で行う保存治療(手術を除く治療)において、障害神経がどの神経かを確認する診断の要素であるとともに、疼痛に対する外来の最終手段とも言われています。

上肢疼痛に対しての頸椎の神経根ブロックと、下肢疼痛(坐骨神経痛)に対しての腰椎の神経根ブロックがあり、腰椎の神経根ブロックが行われることが多いです。
外来で治療導入する事が多い坐骨神経痛を例に説明しますと、医師は症状の問診と診察や画像検査結果から、腰椎の何番の神経が障害の主として悪いかを考えます。疑わしい神経に対して直接神経の枝(神経根)に対して針を刺して治療薬を神経または神経の周囲に注入します。治療薬には局所麻酔薬と、ステロイドといって抗炎症作用の強い薬剤を混ぜて行う事が多いです。

神経根ブロックの仕組み

神経根ブロック

坐骨神経痛に対しての実際の腰椎神経根ブロックは、うつ伏せでおなかを下にして寝た状態で行う方法と、やや斜めにうつ伏せにした状態で行う方法があります。行う医師によって異なります。
診察室ではなくテレビレントゲンモニターを用いた部屋(透視室や血管造影室)で行い、準備にも時間がかかります。

治療が効く仕組みとしては、障害されている神経の炎症を取るのに薬を直接患部の神経に注入できるというもので、神経性の痛みの軽減になり消失することもあります。
少なからず痛みを伴う治療であるため、薬やリハビリで効果がないときに行う治療であり、よほどのことがない場合を除いて、患者さんが初診のその日に最初から行う事はまず少ないです。例外としてブロックが得意な医療機関では、他院で治療しても治らない患者様の場合には、初診であっても積極的にブロック検討することもあります。

他のブロック治療との違い

外来治療で行う各種のブロック注射と神経根ブロックが混同されてしまい同じブロック注射と表記されるため理解が難しいので分類していきましょう。混同されやすいのは仙骨硬膜外ブロック注射や腰部硬膜外ブロックといった硬膜外ブロックです。

また、上肢のしびれや痛みでは、頸部硬膜外ブロックや他にも違うブロック注射があって区別が難しいです。私はペインクリニックの医師ではないので、整形外科の一般的な外来に使用する観点から今回は腰部や下肢に行うブロック注射を区別した説明をいたします。

【部位の違い】

神経根と硬膜外(腔)について
神経根と硬膜外腔は部位が異なります。以下のイラストを見てください。体を横から見たものとなります。まず神経は、硬膜という袋に入って走っており、神経は硬膜の中で一つ一つの椎体を通り抜けて降りる時に1つの椎体で左右二つの神経根という神経の枝を分岐して出します。

硬膜の外側には、硬膜外腔というスペースがあります。これは硬膜の背中側、つまり硬膜の後ろに位置し、脂肪組織を含んでいます。まとめると、神経根と硬膜外は異なる部位で、ともに神経そのものや神経の周りであることを意味しています。注射を行うときは硬膜外注射は背中の真ん中から神経根はやや外側からアプローチします。

神経根と硬膜外腔

【高さの違い】

仙骨硬膜外ブロックと腰部硬膜外ブロック
坐骨神経痛に対する硬膜外ブロックという注射には、仙骨硬膜外ブロックと、腰部硬膜外ブロックがあります。違いは刺入する高さの差です。

仙骨硬膜外ブロックは、尾骨と仙骨の接続する部分にある神経に繋がる孔(仙骨孔)に注射します。
イラストではSacral hiatusという表記の部分になります。この注射のイメージは腰の注射ではなく、お尻の割れ目のやや上から注射して、硬膜外腔を伝って問題の神経の症状を改善させる形になります。

仙骨孔

腰部硬膜外ブロックは、腰の椎体と椎体の間からアプローチして硬膜外に注射を行います。
このように針を刺す高さが違います。

腰部硬膜外ブロック

また、違うブロックの名前には椎間関節ブロックや仙腸骨関節ブロック、トリガーブロックというものがあります。

椎間関節ブロック

椎間関節という部分に注射をします。これは神経ブロックではなく、関節に注射をまいていくようなイメージです。椎間関節症といって、椎間関節に問題があるときに行います。

仙腸関節ブロック

仙腸関節は腰椎と骨盤の腸骨のつなぎ目で、前面に神経が通っています。そのため、炎症が起こると腰痛だけでなく下肢痛を伴うことがあります。特に、妊娠中や産後の女性は仙腸関節の痛みが生じやすい傾向があります。注射は背中側から行います。

仙腸関節

神経根ブロック以外の、腰や臀部に対して行うブロック注射

ブロック名 注射場所 注射部位 注入時間 ダウンタイム
仙骨硬膜外ブロック 診察室(処置室含む) 仙骨孔 約5分 約20分安静の後に帰宅
腰部硬膜外ブロック 診察室(処置室含む)又は透視室 腰椎(硬膜外腔) 約10分(困難例あり) 約20分安静の後に帰宅
椎間関節ブロック 透視室 腰椎の椎間関節 約5~10分 医療機関により異なる(安静または即帰宅)
仙腸関節ブロック 診察室(処置室含む) 仙骨と腸骨の間の仙腸関節 約5分 医療機関により異なる(安静または即帰宅)
仙骨硬膜外ブロック

神経根ブロックはどんな痛み・症状に効果がある?

神経根ブロックが効きやすい痛みは「根性疼痛」といわれます。上肢の場合には肩甲骨の内側や肩甲骨自体から、肩や腕の外側~手に放散する痛みやしびれです。
下肢の場合では、左右の臀部の真ん中(おしりのへこむところ)から太ももの後ろを通りふくらはぎの外側や後ろ側に放散する痛みやしびれです。根とは神経根を表し、神経根の支配領域に沿って放散する痛みというイメージです。神経の痛みは打撲のような腫れた痛みとは異なります。

坐骨神経痛とはどんな痛み?

神経根ブロックの対象疾患

神経根ブロックの対象疾患については、病名で提示すると以下のようなものになります。
一般的には、神経の圧迫性病変で神経根が障害されたもので根性疼痛が発生している場合に適応になります。

【圧迫性病変によるもの】

  • 腰椎椎間板ヘルニア
  • 腰部脊柱管狭窄症
  • 腰椎すべり症
  • 腰椎分離すべり症
  • 椎間孔狭窄
  • 変性側弯症
  • 頸椎椎間板ヘルニア
  • 頸椎症性神経根症

また神経に感染症で痛みが強く起きるものにも適応した報告があります。

【感染によるもの】

  • 重度帯状疱疹

最後に、複雑な神経障害の例もあります。

【神経障害が複雑なもの】

  • CRPS*

    *CRPSとは、複合性局所疼痛症候群といって、骨折後などに不釣り合いな激しい痛みが長時間続く難治性の病態です。

  • 腰椎多数回手術例

神経根ブロック治療の流れ

今回は整形外科でブロック頻度が高い、腰椎神経根ブロックについて説明します。

  1. 体調確認、ブロック注射希望の確認
  2. 同意書に記載
    全医療機関では実施しないが、同意書にリスクや見通しなどを記載
    造影剤のアレルギーがあるかなどを確認するのが一般的
  3. 診察室から透視室に移動
  4. うつぶせになり血圧や酸素飽和度などの測定
  5. 体位を調整し、穿刺部をレントゲン画像を参考に確認、印つける
  6. 消毒
  7. 穿刺部に麻酔をする
  8. 神経に針をすすめる、適切な位置に当たると痛みが臀部から脚に放散
  9. 針の位置を撮影、造影剤を入れると神経が画像上に映り、(レントゲン)撮影する
  10. 注射液を神経に注入。
  11. 針を抜く、消毒し被覆材をあてる
  12. 20-30分安静管理(血圧や酸素飽和度の測定)
  13. 脱力ないか確認し、帰宅

①事前検査・準備

神経根ブロックでは一般的に事前に食事を控える必要はないです。主にこの検査では造影剤アレルギーがあるとか、局所麻酔剤(一般的なもの)で運悪く気持ち悪くなるなどがない限りは嘔吐することはまずありません。いつも通りの生活をして来院されるといいと思います。
検査着については、この検査ではとくに着替える必要はございませんので普段着のままで大丈夫です。

注射の痛み

注射の痛みについては、刺入部に麻酔をしても、神経の過敏な部位(神経根)ブロック用の針で注射をするので注射針をすすめたときの深部の痛みは取れません。注射が最適部位に入ったときにはお尻から脚までの放散痛が流れるので、痛みを感じてしまう検査となります。
炎症を抑えるための注射液を注入時にも痛みが少し増します。注射は問題なければ5分程度で終わります。

注射後の変化

注射直後は、少し脚が痺れて力が入りにくい方もいますので、ストレッチャーで安静にします。スペースの問題で車椅子で管理でも問題はないと思います。注射液の効果については、即効性のある局所麻酔剤と、長期に効くステロイドが含まれており効果が持続していきます。

神経根ブロックの持続時間・回数

効果がはっきりわかるまでには、約2週間ほどかかります。
「注射をした瞬間にすぐ最終的に効いたかどうかの結果が出る治療」ではありません。私のこれまでの経験から、効果の判定には約2週間程度の経過観察が必要です。

◆効果のあらわれ方には個人差があります

  • 注射後すぐに楽になる方
  • 数日は変化がなく、少しずつ痛みがやわらぐ方
  • 一度良くなっても、途中で症状が戻る方
  • 逆に、ゆっくり立ち上がって後から一気に良くなる方

様々なパターンがあり、2週間程度推移すると落ち着いてきて効き目の判定が可能です。

神経根ブロックの効果が持続する期間は?

神経根ブロックの効果持続には個人差があります。報告では24時間以上ブロック効果が認められる場合には手術回避する確率が85%と言われており、一方で24時間以内に症状が出てくる場合には95%が手術になる事があると報告されています。*1
これは、当時の脊椎の分野を導かれていた大家の先生がまとめられた貴重な考察です。時代によって手術の判断基準は多少移り変わり、一部異なる点もございます。

また、別の報告では片側の下肢痛の腰部脊柱管狭窄症34例に対し神経根ブロックを行って64%は12か月以上の症状緩和が得られた*2と報告しています。

*1菊池臣一ら、整形・災害外科27:1897-904(1984)
*2Botwin P , American Journal of Physical Medicine &Rehabilitation 81:898-905(2002)

神経根ブロック注射は何回受けられる?

短期間に多数回の神経の穿刺を行った場合に神経損傷がリスクとして挙げられています。それゆえ、効かない患者さんに何度も行う事はリスクをよく説明する必要があります。医師側の多くは、効かないなら手術も勧めよう、効くなら続けてもいいが回数はなるべく少なく管理しようと考える注射です。
多少効いている患者でも1カ月以上は待って試行する事がほとんどです。

神経根ブロックの痛み・副作用

神経根ブロック注射は痛い?

神経根ブロックは少々痛いです。痛い治療ではある一方で、過剰に怖がるような治療でもないです。
他にも整形外科で注射してもらっているので、軽くブロックしてもらおうといったような気持ちでは受けない方がいいと思います。担当医の話をきちんと聞いていただき、納得の上で注射されるといいです。

合併症や副作用リスクはある?

今回説明している腰椎の神経根ブロックでは出血、感染、神経根損傷、血管穿刺、局所麻酔中毒が合併症であがりますが、長年行ってきた感覚としては、短期間に複数回やると嫌な脚の痛みをわずかに感じる方がいることがあり、それが神経根に影響が出る(針で直接刺激しているから)結果だと思います。

神経根ブロック治療後の注意点

神経根ブロック注射後の注意点は、当然脚に力が入ると思って無理に立ち上がったりすることです。
注射直後はやや不安定な患者様がいるので、いったんは安静をきちんと取ってください。

神経根ブロックの費用・保険適用について

神経根ブロックの費用は、保険が適応になります。ブロックに診察料など加えると概算で、3割負担の方で5,000円程度です。1割負担の方は1,000円~2,000円程度です。

まとめ

神経根ブロック注射は、私が外来治療で一番時間をかけてきた治療になります。患者さんの辛い痛みやしびれが注射一本で一気に取れたときの爽快感は忘れられないものでした。
しかし、患者さんの神経根ブロックは、被爆をします。患者さんは年に1,2度でありとくに人体に影響は少ないです。しかし沢山の方にブロックをする側の整形外科医は体を酷使しています。実際に私の小指の爪は被爆による腫瘍化の疑いがあり、爪を剥がしました。私も痛みを伴った治療ではありますが、後悔はありません。この治療の切れ味の良さや患者さんが喜ぶ姿が私の生きがいであり今後も被爆には気を付けつつ、続けられる限り行おうと思います。

患者さんも良くなるために痛みが伴う治療ですが、私もこの治療に覚悟を決めて取り組んでいます。
一緒に笑顔となれるように、相談ください。
きっと痛みは取れる方法があります。

監修

整形外科専門医 Dr.沼口大輔

整形外科専門医Dr.沼口大輔

大学 2006年 東邦大学医学部卒 2025年 早稲田大学 大学院経営管理研究科(MBA)修了
資格、学位 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医 MBA(経営学修士)
職歴
2006年 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修)
2008年~ 東京女子医科大病院整形外科 入局
千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む
2013年 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得
2016年 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得
2016年~ 東名厚木病院 医長
脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる
2019年 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得
2024年~ 千葉県内 救急病院に入職
2025年 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得
学術活動

原著論文1

Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis. 2019/04

症例報告

C5/6 hyperflexion sprainの1例 2018/06

原著論文2

環軸関節亜脱臼の診断におけるトモシンセシス撮影の有効性 2017/08

原著論文3

人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例 2012

学会発表

  1. 強直性脊椎骨増殖症に発生した頚椎骨折に対して、前方固定術を施行した1例 (口頭発表,一般)
  2. MRI矢状断像における椎間孔部での狭窄の分類 (口頭発表,一般) 2013/04/25
  3. 脊椎手術において2本ドレンを留置することは術後の血腫による麻痺を防ぐことができるか (口頭発表,一般) 2013/04/25
  4. 椎体骨折偽関節症例に対するBalloon kyphoplasty施行後の隣接椎体骨折危険因子に関する検討 (口頭発表,一般) 2013/04/25
  5. 肩甲上神経絞扼を認めた肩甲切痕部ガングリオンの1例 (口頭発表,一般) 2012/06/23
  6. 外反母趾術後に出現した足底部痛の1例 (口頭発表,一般) 2010/11/16