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仙骨硬膜外ブロックとは、尾てい骨の部分から注射するブロック注射の一つです。
比較的簡単で整形外科やペインクリニック外来で可能な、多施設で行われている治療のひとつです。
仙骨硬膜外ブロックとは

仙骨硬膜外ブロックとは、穿刺する部位が“仙骨”、神経に注射薬が届く方法が“硬膜外”という注入方法で行い、注射により痛みの神経伝達を“ブロック(遮断する)”注射ということを表しています。
イラストのような、丸みを帯びたお尻の中央部には尾てい骨があります。お尻をうしろから見た尾てい骨は三角形をしており、仙骨孔(Sacral hiatus)という部分があります。
これは神経に繋がる孔で骨内にあります。この孔に注射して、注射を硬膜外(神経の近傍)に行う注射を仙骨硬膜外ブロック注射といいます。お尻からの注射といっても、肛門からは遥かに離れています。お尻の割れ目の始まりよりも頭側で注射するので、診察室で凄く恥ずかしい姿にもならない(ズボンを少しおろすが、タオルなどで配慮しますし、お尻が全部出るようなことはない)ので安心してください。

仙骨ブロックと硬膜外ブロックの違い
仙骨硬膜外ブロックと腰部硬膜外ブロック
硬膜外ブロックという注射には、仙骨硬膜外ブロックと、腰部硬膜外ブロックが主にあります。どちらも坐骨神経痛に対して使用しておりますが、違いは刺入する高さの差です。
- 仙骨硬膜外ブロック
尾骨と仙骨の接続する部分にある神経に繋がる孔(仙骨孔)に注射します。イラストではSacral hiatusという表記の部分になります。この注射のイメージは腰の注射ではなく、お尻の割れ目のやや上から注射して、硬膜外腔を伝って問題の神経の症状を改善させる形になります。 - 腰部硬膜外ブロックは、腰の椎体と椎体の間からアプローチして硬膜外に注射を行います。
神経に向かって針を刺しますが、硬膜外というスペースにたどり着いたことを確認して薬を注入します。
仙骨硬膜外ブロックの適応疾患
仙骨硬膜外ブロック注射の対象疾患については、病名で提示すると主に以下のようなものになります。
一般的には、神経の圧迫性病変や変性での痛みやしびれについて行うと症状が軽減しやすいです。
神経症状としての腰痛についても改善余地があります。
【一般的な症状】
- 腰痛症
- 坐骨神経痛
【圧迫性病変によるもの】
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 腰部脊柱管狭窄症
- 腰椎すべり症
- 腰椎分離すべり症
複雑な神経障害の例もあります。
【神経障害が複雑なもの】
- 腰椎多数回手術例
- 慢性腰痛症
仙骨硬膜外ブロックの効果
「坐骨神経痛、しびれ」と「急性腰痛、慢性腰痛」に使用していく価値のある治療と考えております。
椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛患者に、硬膜外ブロックをステロイド入りで行うと、6か月以内では疼痛緩和効果を認めましたが、長期的な効果は限定的でした。神経機能の改善には有意差がありませんでした。*1
また、慢性腰痛に対しては、短期的な疼痛緩和効果をもたらすものの、3か月以上の長期的な効果は限定的でした。*2
以上より、坐骨神経痛や慢性腰痛についても硬膜外注射の効果はあるが、効果がなくなる時期に次なる注射などの反復を行う必要性があることを示しています。
*1Zhang Y, et al. Efficacy of epidural steroid injection in sciatica due to lumbar disc herniation: a systematic review and meta-analysis. ResearchGate, 2024.
*2American Academy of Neurology. Steroid injections for chronic low back pain: limited long-term efficacy. Verywell Health, 2025.
効果の持続期間は?何回くらい打つ?
持続期間は、個人差があります。数か月もつ例もあれば、注射した帰り道で症状が再燃してしまう例もあります。注射をおこなって、ある程度症状が取れた後に症状がもとに戻ってしまうことはしばしば経験もします。
その時に以前と全く同じか、違うかを注意深く確認します。全く同じレベルに戻るのであれば効果は乏しいと判断する場合が多く、2-3割程度でもベースの症状が下がれば、もう一度行うことでさらに低下することを期待できる可能性があります。再実施の頻度目安は約1カ月程度です。
仙骨硬膜外ブロック注射の流れ
【検査・準備】
- 体調確認、ブロック注射希望の確認
- 同意書に記載
全医療機関では実施しないが、同意書にリスクや見通しなどを記載 - 診察室または処置室に移動
- うつぶせになり血圧や酸素飽和度などの測定
【仙骨孔ブロック注射】
- 体位を調整し、穿刺部を触診で決定して仙骨孔を確認、印つける
- 消毒する
- 穿刺する
- 注射液を仙骨孔に注入する
- 針を抜く、消毒し絆創膏などを貼る
【安静】
- 20-30分安静管理(血圧や酸素飽和度の測定)
【効果判定】
- 脱力ないか確認し、帰宅
検査・準備
注射前に最初に行う事として、まず体調確認、ブロック注射希望の確認をします。
続いて、同意書に記載をします。この注射については、歴史が長いクリニックなどを含めると全医療機関では実施しない場合があります。本来は同意書にリスクや見通しなどを記載して、診察室または処置室に移動します。その後、うつぶせになり血圧や酸素飽和度などの測定を行います。
仙骨硬膜外ブロック注射
続いて、体位を調整し、穿刺部を触診で決定して仙骨孔を確認、印をつけます。その部位を消毒し、穿刺します。
注射液はキシロカインやマーカインといった局所麻酔薬に、ステロイドを混ぜることもあります。それらを仙骨孔に注入します。約10秒程度で終わり、針を抜き消毒します。最後に絆創膏を貼ります。
安静
注射後には安静期間を置きます。
処置室で休んでもらう事が多く、注射早期に立ち上がると脱力することもあるので20分~30分ほど休む施設が多いです。
診察・効果判定
帰宅に際して、担当医は異変がないか確認をしたり、しびれや痛みの消失が得られたかを確認します。
医師は注射後に他の患者の外来もしていることがほとんどです。この確認は必須ではないので、看護師さんが担当医に状態を連絡して、帰宅OKの判断となる事も多いです。
仙骨部硬膜外ブロック注射は痛い?
注射の痛みについては、強くはありません。通常はお尻がチクっとしてから重い感じがあったり、お尻に何か流れる感覚を得る事があります。腰の神経が過度に狭い方の場合には、注射が入るとお尻から脚までに痛みを少し感じてしまう場合があります。通常数時間で取れていきます。
仙骨硬膜外ブロックの副作用・合併症リスク
今回説明している仙骨硬膜外ブロックでは出血、感染、神経損傷、血管穿刺、局所麻酔中毒が合併症であがります。しかし、このような可能性は極めて低く、超高齢者の場合には体が過敏な反応をする方もいるので迷走神経反射(一時的な貧血のような症状)が出ていないか気を付けるようにしています。
仙骨硬膜外ブロックが受けられない方
血液をサラサラにする薬を内服されている方は血腫になることがあり、注意をしながら実施するか、実施をとりやめることがあります。薬とは、バイアスピリン、ワーファリンなどです。
また、注射の日に発熱している人、常に治らない何らかの創部を体にお持ちの方は穿刺部が感染する可能性があるので実施を見送ります。さらに、白衣高血圧で血圧が高い人は、注射の痛み反射でさらに血圧上がるために実施前に降圧剤を行います。
降圧が難しければ実施を見送ることがあります。
まとめ
仙骨硬膜外ブロック注射は、多くの整形外科医が外来治療で頻繁に行う治療になります。
患者さんの辛い痛みやしびれが注射一本で一気に取れたときの爽快感は忘れられないものです。
注射は簡便で、7%の方は仙骨孔が閉じていると報告がありますが、多くの方には簡単に硬膜外に注射ができます。患者さんも良くなるためにすこしの痛みが伴う治療ですが、腰痛や臀部の痛みやしびれ、下肢の痛みやしびれが薄らいだり辛い部分の領域が小さくなったりすることがあるので、是非相談いただけますと幸いです。薬では取れなかったしびれや痛みが一気に引くこともあります。
監修

整形外科専門医Dr.沼口大輔
2006年 | 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修) |
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2008年~ | 東京女子医科大病院整形外科 入局 千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む |
2013年 | 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得 |
2016年 | 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得 |
2016年~ | 東名厚木病院 医長 脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる |
2019年 | 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得 |
2024年~ | 千葉県内 救急病院に入職 |
2025年 | 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得 |
原著論文1
Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis. 2019/04
症例報告
C5/6 hyperflexion sprainの1例 2018/06
原著論文2
環軸関節亜脱臼の診断におけるトモシンセシス撮影の有効性 2017/08
原著論文3
人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例 2012
学会発表
- 強直性脊椎骨増殖症に発生した頚椎骨折に対して、前方固定術を施行した1例 (口頭発表,一般)
- MRI矢状断像における椎間孔部での狭窄の分類 (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 脊椎手術において2本ドレンを留置することは術後の血腫による麻痺を防ぐことができるか (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 椎体骨折偽関節症例に対するBalloon kyphoplasty施行後の隣接椎体骨折危険因子に関する検討 (口頭発表,一般) 2013/04/25
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