星状神経節ブロックとは?効果・適応疾患・治療の流れなど

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星状神経節ブロックというブロックはペインクリニックではよく行う治療のひとつです。整形外科でも頸椎ヘルニアなどを治療してきた先生や、ペインクリニックを勉強した先生では行う治療です。
幅広い疼痛に対し用いる事で、痛みを軽減できる可能性がある治療です。
今回は星状神経節とはいったい何なのか、ブロックするとどのような効果があるのかについて説明いたします。

星状神経節ブロックとは

星状神経節とは

神経節とは神経の線維が集まってコブ状に太くなった部分で、神経伝導(興奮)の伝わり方を調節する部位です。星状神経節は、第7頸椎の喉側(前面)にあります。首や胸部に分布する交感神経を内在しています。

星状神経節とは

説明:このイラストは首を前面からみたものになります。頸椎7番はC7と表記されます。星状神経節は動脈の近くに存在します。

Marcer N,An anatomical investigation of the cebiothoracic ganglion.Clin Anat 2012:25:444-51

交感神経とは

交感神経とは体を「戦うか逃げるか」の状態に導く神経で、対をなす言葉は体を安静にするので有名な副交感神経です。

交感神経が働く場合、太い重要臓器の血管については心拍数が上がったり、血圧が上がり臓器血流を担保します。逆に末梢血管というところには血管を収縮させて血流が減ってしまいます。アクセルにあたる交感神経と、ブレーキにあたる副交感神経のバランスが重要です。

例として頸椎ヘルニアの症状と、星状神経節ブロック

急性な上半身の疼痛やしびれでは、神経の支配領域に痛みといった何らかの異常が発生すると交感神経が作用して防御反応をおこします。血管を収縮させる方向に働き、組織の血流が下がって硬くしてしまいます。

これは組織の硬さによる痛みやしびれの悪循環を発生してしまう原因になります。注射でその過剰な交感神経興奮状態にある星状神経節の働きを一時弱くしてあげると、血流を保って炎症や過剰になった末梢組織の緊張などを解除してあげられます。このようにして痛みやしびれを回復させることを目的とするのが星状神経節ブロックです。

神経ブロックとは?

星状神経節ブロックの効果

血流改善してしびれや痛みを和らげます。様々な部位に効能があるので頭や顔面、上半身の神経症状の痛みの中で、急性期の疼痛が慢性化を防ぐための一手になる事があります。
慢性化して定着してしまった痛みやしびれには効きが弱いこともありますが、繰り返し行うことで症状緩和に向かいやすいとも言われております。

効果が持続する期間は?何回くらい打つ?

星状神経節ブロックや他のブロック全般についても、効果の期間には個人差があります。
きちんとデータが提示されているものもあります。ひどい痛みで有名な帯状疱疹後神経痛についてはガイドライン上推奨レベルが2C「効果の推定値に対する確信は限定的である」とされています。やや控えめに聞こえると思いますが、他のブロックがこのひどい痛みに対して「効果が殆ど確信できない」中では、良い結果といえます*1

またCRPSといって難治性の痛みに対しても、手関節の可動域や痛みに有意な改善を認め、このブロックを用いるまでの治療開始は12週以内に行うと治療効果が高いなど、その効果について注目されている治療です。良い効果を実感できる場合は継続を検討されるといいです。

参照:*1慢性疼痛治療ガイドライン.2018.7-9.76-111

星状神経節ブロックの適応疾患

星状神経節ブロックは整形外科的な痛み以外の疾患にも広く用いられております。以下の疾患に対して適応があります。

  • 帯状疱疹後神経痛
  • 神経障害性疼痛(頸椎症性神経根症、頸椎椎間板ヘルニア)
  • 顔面神経麻痺
  • 耳鳴り、めまい、聴力障害(突発性難聴、メニエール病)
  • 複合性局所疼痛症候群(CRPS)
  • 頭痛
  • 肩腕症候群などの様々な慢性疼痛
  • ホットフラッシュ
  • 心的外傷後ストレス障害

参照元:谷口彩乃、慢性疼痛に対する超音波ガイド下神経ブロック、Pain Clinic Vol.42(2021.12)

星状神経節ブロックの流れ

星状神経節ブロックの流れは以下です。

  1. 事前確認と準備
  2. 消毒と注射の実施
  3. 注射後の安静と観察
  4. 効果の判定と帰宅

事前確認と準備

  • 既往歴と内服薬の確認
    患者の既往歴や現在服用している薬剤を確認します。
    特に、抗凝固薬(ワーファリン、アスピリンなど)を服用している場合、出血リスクが高まるため、このブロックは適応外となることがあります。
  • 体調の確認、血圧測定
    発熱や感染症の兆候がある場合、治療を延期することがあります。
  • 体位の調整
    ベッドに仰向けに寝て、首を後ろに反らせ、顎を天井に向ける姿勢をとります。
    両手は体の脇に置き、リラックスした状態を保ちます。

消毒と注射の実施

消毒と注射の実施

参照元:https://www.painguru.in/index.php/blog/stellate-ganglion-block-a-minimally-invasive-solution-for-pain-relief

  • 消毒
    注射部位の皮膚を消毒します。
  • 超音波ガイドの使用(施設による)
    エコー(超音波装置)を用いるか手の感覚でも行うことがあります。エコーでは注射部位の血管や神経を確認し、血管を刺さないように針を進めます。
    手の感覚で行う場合にも危ない血管が拍動して蝕知できるため、エコーを必ず併用しないと注射部位がわからないということまでは起きません。
  • 注射
    細い針を用いて、局所麻酔薬を星状神経節付近に注入します。注射は数十秒で終了します。

注射後の安静と観察

  • 止血
    注射後、患者自身の指で注射部位を5分程度圧迫し、止血を行います。
  • 安静
    ベッド上で20〜30分間安静にし、血圧や症状の変化を観察します。
  • 副作用の確認
    まぶたの下垂、目の充血、鼻づまり、声のかすれなどの一時的な副作用が現れることがあります。
    これはきちんと注射が効いている証拠でもあります。通常は数時間で回復します。

効果の判定と帰宅

  • 効果の確認
    医師が治療効果を評価し、問題がなければ帰宅となります。
  • 注意事項
    当日は激しい運動や入浴を控え、注射部位を清潔に保ちます。

星状神経節ブロック注射は痛い?

星状神経節ブロックの穿刺については痛みが強くはありません。神経に直接針を刺す神経根ブロックと異なり、薬を前頸部深層の空間に撒くような形でブロックする注射となるため、この神経ブロックでは針の影響で神経のビリビリした痛みがでるようなことは少ないです。

星状神経節ブロックの副作用・合併症

注射後におこる反応と副作用を分けて説明します。
注射がきちんと聞くと注射後のおこる反応はある程度起きてくるので、それは様子を見る形で改善が見込まれます。

注射を行った後に問題が少ない反応

  • 顔、頸部、上肢があたたかく感じる
  • 上瞼が下がり、目が充血する。みえにくさ
  • 上半身の汗が減少
  • 鼻つまり
  • 肩甲背痛

合併症

  • 嗄声(させい:声がかれること)
    10-20%程度。1時間程度で自然回復するが、その時間に飲水するとむせこむことがあります。
  • 腕や手のしびれ、脱力
    1%以下と言われています。
  • 後咽頭血腫
    血管損傷の結果気管周囲に血腫ができるもので0.0025%(4万回に1回程度)の発生です。
    注射直後ではなく3時間程度あとから出現する事がありますので、注意を要します。
    適切な対処がなされないと呼吸困難となる事があり、気道閉塞をしてしまうと重篤な推移になる可能性があります。
  • 局所麻酔中毒
    麻酔薬が誤って血管内に注入されてしまうことで生じます。
    痙攣や意識消失を起こすことも。
    血管は大きなものは拍動して触れますが、破格といって、奇妙な分岐をしている方だと血管内に少し入る事があります。その場合には注意を要します。

星状神経節ブロックの費用・保険適用について

費用については、保険診療の項目ですので以下のような負担になります。

※注射のみの費用
1割負担:340~360円
3割負担:1,020~1,060円

なお、初診料や再診料、画像診断料などが別途かかります。

まとめ

星状神経節ブロックは、頸椎ヘルニアなどの神経性の首の痛みに対して行う注射治療です。かつては内服薬が十分でなかったため、上肢の神経痛の改善手段として広く用いられていました。
その後合併症の懸念から一時は敬遠された時期もありましたが、近年はエコーによる画像確認が可能となり安全性と効果が再評価されています。

私は脊椎外科医として、頸部の痛みに対する治療において、手術・内服・リハビリと並んで、神経ブロックを重要な選択肢と考えています。
通常の外来治療だけでは症状の改善が難しい患者さんに対しては、星状神経節ブロックを含む各種ブロック治療を提案し、リスクを十分説明したうえで、納得された方に施行してきました。ご不安のある方も、まずはお気軽にご相談ください。

監修

整形外科専門医 Dr.沼口大輔

整形外科専門医Dr.沼口大輔

大学 2006年 東邦大学医学部卒 2025年 早稲田大学 大学院経営管理研究科(MBA)修了
資格、学位 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医 MBA(経営学修士)
職歴
2006年 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修)
2008年~ 東京女子医科大病院整形外科 入局
千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む
2013年 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得
2016年 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得
2016年~ 東名厚木病院 医長
脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる
2019年 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得
2024年~ 千葉県内 救急病院に入職
2025年 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得
学術活動

原著論文1

Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis. 2019/04

症例報告

C5/6 hyperflexion sprainの1例 2018/06

原著論文2

環軸関節亜脱臼の診断におけるトモシンセシス撮影の有効性 2017/08

原著論文3

人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例 2012

学会発表

  1. 強直性脊椎骨増殖症に発生した頚椎骨折に対して、前方固定術を施行した1例 (口頭発表,一般)
  2. MRI矢状断像における椎間孔部での狭窄の分類 (口頭発表,一般) 2013/04/25
  3. 脊椎手術において2本ドレンを留置することは術後の血腫による麻痺を防ぐことができるか (口頭発表,一般) 2013/04/25
  4. 椎体骨折偽関節症例に対するBalloon kyphoplasty施行後の隣接椎体骨折危険因子に関する検討 (口頭発表,一般) 2013/04/25
  5. 肩甲上神経絞扼を認めた肩甲切痕部ガングリオンの1例 (口頭発表,一般) 2012/06/23
  6. 外反母趾術後に出現した足底部痛の1例 (口頭発表,一般) 2010/11/16