肩こりで病院に行くべき?目安となる症状やタイミングを医師が解説

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肩こりは馴染みがあるけれど、整形外科で治してくれるの?と疑問の方も多いと思います。

肩こりは実は充分に原因が明らかになっておらず、日本人特有とも言われています。国民生活基礎調査では女性で1位、男性では2位を占めており、一説では国民の90%が経験すると言われています。

肩こりの原因

肩こりの原因

肩こりは、原因が不明なもの(原発性といいます)と、原疾患があきらかなもの(症候性といいます)に分類されます。

症候性の原因は整形外科の範囲では脊椎脊髄疾患や肩関節疾患、末梢神経障害です。他の原因は内科疾患や婦人科疾患、耳鼻咽喉科疾患、精神科疾患などと多岐にわたりますが、共通しているのは原因により頸椎の椎間板、椎間関節、神経根、頸部筋群が疼痛源となり発症します。

肩こりには性差があり、女性が1.3-1.5倍多く症状を感じると報告されております。筋力が弱いことや、女性ホルモン影響で靭帯が弛緩しやすいといった影響もあります。

日本人の肩こりについては、心理社会的ストレスと相関があるとも指摘されており、日本語は「肩の荷が下りる」「肩を持つ」など肩の表現が多い言葉であるので肩に特に意識が集中しやすいとも言われています。

分類 原因
原発性(原因不明) 不明
症候性(原因が明確)
  • 整形外科疾患脊椎脊髄疾患、肩関節疾患、末梢神経障害
  • 内科疾患
  • 婦人科疾患
  • 耳鼻咽喉科疾患
  • 精神科疾患

文献:日本人が訴える肩こりの特徴について、沓脱正計、2010年

頸部肩こりに対する治療戦略 黄金勲矢、2022、関節外科Vol41 No.7

肩こりで病院に行くべき?目安となる症状・タイミング

肩こりで病院に行くべきか迷っていらっしゃるかと思います。危ない肩こりもあるので、一度検査をされると良い判断だと思います。そこでオススメするのは、「肩の痛みで相談にきた」形にされるといいです。

医師の中には、肩こりは薬で治すにはやりすぎだし、民間治療(鍼、整体)に行ってほしいと思っている者もいます。
しかし、軽症が多い「いつもの単なる肩こり」で相談に行くより、「今回は少し違って肩の痛み」と相談される方が医師も原因検索に熱心になってくれる可能性が高まります。

「普段の肩こり」ですと言われると、「皆経験するし、(医師を含めて)我慢をある程度しているので、何で診察に来たんですか」など冷たい返答をされ不愉快になった場合も耳にします。

起床時など朝に痛みが出る

寝ている時間に肩が急激に痛くなるものの中に、肩の腱板断裂という障害になっている事があります。

これは、肩のインナーマッスルである腱板という筋肉が加齢により断裂するもので、発生頻度は60歳以上で25%、70歳以上で50%と加齢で増加していきます。
夜間痛は腱板断裂患者の90%で感じる事がわかっています。この夜間痛には、肩峰下滑液包という部分の内圧が上がることや血流が影響します。適切な治療をしないと断裂部分が大きく広がって悪化する事もあり、整形外科受診を勧めます。

参考:肩腱板断裂保存療法患者の夜間痛改善に影響を与える因子の検討

しこりがある

しこりがある

肩の後面には広背筋という筋肉がありますが、そこに脂肪腫という腫瘍ができる事は整形外科外来をしていればしばしば遭遇します。良性腫瘍なのですが、中には悪性転化するものもありますので、肩回りにしこりがあるという場合には一度整形外科に相談されることを勧めます。

片側の肩だけが痛い

肩の痛みで多いものとして、肩関節由来の構造物からの炎症の痛みと、首の神経の症状として発現する肩甲骨内側の痛みがあります。
どちらの場合も片側だけの肩が痛いという表現で来院はされます。神経の痛みは首を斜め後ろに反らせると出現、悪化していく痛みが特徴的です。

肩関節の問題はそれぞれの肩の肢位(ひねる、上げる、まわすなど)それぞれ問題がある部位の炎症が悪化する動きで痛みが出ます。つまり肩関節内の環境が変化をする時に悪化するものです。痛みがなかなか取れない推移になるものもありますので早期の相談が勧められます。

突然強い痛みが出た

強い肩の痛みは、腕が上がらなくなる、寝込むなど社会生活に支障をきたすことがあります。
中には危険なケースもあり、背部痛が狭心症や心筋梗塞の症状であることもあります。特に冷や汗を伴う場合は注意が必要です。

また、「石灰沈着性肩関節炎」は40~60歳代の女性に多く、糖尿病や腎結石と関連がある内分泌疾患の一つで、肩関節内に石灰が沈着し炎症を引き起こします。さらに、「腱板断裂」では激しい痛みや脱力を伴うこともあります。強い痛みを感じた際は、整形外科を受診し、原因を特定することが重要です。

参考:
日本整形外科学会

石灰沈着性腱板炎―独立行政法人国立病院機構 霞ヶ浦医療センター

腕や肩、手などにしびれがある

腕や肩、手にしびれがある場合については、単純な肩の痛みとは原因が違う事も多いです。
しびれは単純な肩の痛みとは異なる原因が多く、どの動きで悪化するかが重要です。

首を斜め後ろに倒すとしびれが強まる場合、「頸椎症性神経根症」の可能性があり、首の神経圧迫が原因となります。肩の動きで肩から腕に広がる場合は、インナーマッスルの障害である「腱板断裂」でひどくなってしびれを伴ったものも疑います。
また、脳梗塞による上肢のしびれもあり、生活習慣病や脳神経の診察結果と合わせて評価が必要です。他にも多くの原因が考えられるため、自己判断せず医師に相談することが大切です。

頭痛やめまい、吐き気などの症状がある

肩の痛みと頭痛・めまい・吐き気について

肩の痛みに加え、頭痛やめまい、吐き気がある場合、整形外科と神経内科、脳外科どれに相談していいか迷いますね。「痛みの震源地が最初どこだったか」でまずは考え、「現在も震源地の症状があるならそこから相談する」と覚えて頂けるといいと思います。
例として頭⇒首に症状がおりていったならまず頭の先生にかかったほうがよく、首⇒頭に症状が上がっていった場合は整形外科に相談がいいです。

整形外科でのケース

首から肩に広がる僧帽筋の痛みが原因で、頭の付け根まで痛みが広がり、頭痛やめまい、吐き気を引き起こすことがあります。
特に女性では経験することが多く、肩や首の痛みが先に現れるのが特徴です。肩首をなおしていくと頭痛が改善することもしばしばあります。

頭(神経内科や、脳外科)のケース

頭痛やめまいが先に発生し、それに伴って肩の痛みが出る場合は、片頭痛や群発頭痛、耳鼻科領域のメニエール病などが疑われます。
頭痛は危ないものもあるので、ひどいようならまずは頭痛の相談から始めると付随して肩首の痛みが引くことがあります。

全体的には、肩の痛みが最初で頭痛やめまいが続く場合、整形外科が適しています。筋肉の弛緩剤やリハビリで改善するケースも多いため、適切な診療を受けることが重要です。

呼吸がしづらい、動悸がある

整形外科が取り扱う肩関節の障害では呼吸がしづらい、動悸が起こるところまでは障害は発展しません。動悸は不整脈の可能性もありますので、内科への相談を勧めます。

運動が原因・スポーツに支障が出る

ベンチプレスでの肩疼痛

ベンチプレスでは、大胸筋の損傷を伴う事があります。バーベルを深く下げると、図の胸肋部の下方と腹部の部位で断裂が起きることがあります。その場合に痛み訴えが“肩の痛み”になります。
多くの場合では保存治療ですが、腕についている部分で切れてしまう場合には手術が必要な場合があります。

ベンチプレスでの肩疼痛

画像引用:医学文献検索サービス -メディカルオンライン

野球で肩が痛い

野球での肩の痛みは、年齢により異なります。投球障害肩は,年代やレベルを問わず投球フォーム自体の異常や身体機能障害による投球フォームの乱れが病因と考えられることが多いです。
まず身体機能評価により異常が見つかれば定期的なリハビリを試み、リハビリに反応しない場合は画像診断・手術を検討することがあります。

【小中学生】
投球フォーム自体の異常と、その状態によるオーバーユースが考えられます.この世代の投球フォーム異常は、フォームに対する誤った理解に起因する事が多いです。
対応策として、投球フォームの異常が明らかな場合はフォーム指導を行います。

【高校生、大学生】
投球フォーム自体の異常と身体機能不全に起因するフォームの乱れおよびその状態によるオーバーユース、特に高校生では下肢や体幹の基礎体力の不足により良好な投球フォームを維持できない場合があります。

肩こりは何科を受診するべき?

肩こりで、医療機関で相談する場合は整形外科で間違いないです。
必要時に違う科への紹介もしていく形になります。

肩こりの治療は整形外科と整骨院どっちに行くべき?

まず整形外科を受診し、肩こり以外の病気がないか確認することが重要です。

肩こりが起きたばかりの方は、レントゲンやMRI、身体診察を通じて診断を受け、治療方針を決めます。整形外科では薬物療法、リハビリ、注射などが一般的に行われます。

一方、慢性的な肩こりでは、整骨院や鍼灸などの民間療法も選択肢となります。研究によると、発症1年未満は根本治療を求める傾向があるのに対し、1年以上経過すると整体やマッサージで症状緩和する行動が増えます。

また、慢性疼痛では整形外科治療の満足度34%に対し、民間療法は50%と高い報告するものもごく一部の論文ではあります。これは、薬やリハビリの限界を補う役割があるためと考えられ、保険医療のリハビリのさらなる改善が求められます。

日本人が訴える肩凝りの特徴について

重度の有痛性肩こりの受療行動に関する実態調査 日本運動器疼痛学会誌 2022;14:100‒106.

肩こりに対して整形外科では何をする?

整形外科では肩こりに対して、まず原因を特定するために検査を行います。診察手法で頸椎由来なのか肩関節由来なのか、また全然違う理由なのかを分類していきます。

さらに検査はレントゲン写真で肩関節や、頸部も近いので頸椎も撮影する事が多いです。その時点で体の痛みの部位を特定し、原因のための治療をしていきます。一般的には内服薬や、リハビリ、筋肉へのトリガーポイント注射です。気になる症状でMRIで確認を要する場合には撮影もしていく事が多いです。

肩こりで整形外科を受診した場合にかかる費用はいくら?

よくある初診の例としては、来院されて診察をし、レントゲンを撮り、内服処方を出すとします。初診料は一般的に291点、レントゲンは肩で仮に2枚なら287点、処方料は60点です。

患者負担については、(3割)は、638点×10円/点×0.3=1914円

ただし、初診料は加算があり上振れるので300点台になります。
また処方についても一般加算などがあって少し上振れます。
よって、概ね3割負担にて2000円~2700円程度となると思います。

これらの計算は診療報酬改定で変わる可能性があります。また、リハビリが可能な場合には、さらにリハビリの費用が上乗せになります。

肩こりの症状を改善したい場合の整形外科(専門医)の探し方

整形外科医のいるクリニックや医師の探し方について述べます。

① 通いやすいクリニックを選ぶ

  • 自宅や職場の近くのクリニックをおすすめします。
  • 治療が長期になることが多いため、持続可能で通いやすいという点が重要です。
  • 通院しやすければ、治療の継続がしやすく、早期改善につながります。

② 医師の専門性を確認する

  • 「肩こり専門医」は存在しません。
  • 経験が豊富という点では、整形外科専門医肩関節関連の学会所属の医師を選ぶと良いです。
  • リハビリ設備が充実している(運動療法+物理療法)クリニック・病院も判断として良いです。

③ 肩の痛みと首の神経痛の違いに注意

  • 肩の痛みと首の神経による痛みは治療法が異なります。
  • 二つを明確に分けて診断できないと、薬やリハビリ、注射などの治療方法がうまく奏功しません。診断が特に重要です。
  • 脊椎外科医は肩と神経の痛みの仕分け、治療が得意です。

④ 専門的な診断・治療が必要な場合

  • 脊椎手術や肩関節の手術経験を重ねてきた専門医なら、痛みの分類が可能です。
  • 肩こり・肩の痛み・しびれでお悩みの方は沼口までご相談ください。
  • リハビリスタッフと共に、誠心誠意治療を行います。

肩こりに関するよくある質問

肩こりで病院を受診したら薬(飲み薬・塗り薬)はもらえますか?

肩こりでも、筋を触れれば左右差があり筋が硬く腫れている場合が多いです。その場合には筋弛緩剤や抗炎症剤の飲み薬を使用したり、塗り薬や張り薬を使用しますので大丈夫です。

肩こりで病院を受診した場合に保険適用されないこともありますか?

そのような例はまずないかと思います。

肩こりにボトックス注射が効果的と聞いたのですが整形外科で受けられますか?

ボトックス注射は主に美容クリニックやペインクリニックで行われ、整形外科では一般的ではありません
ボツリヌス毒素は神経筋接合部に作用し、筋弛緩効果をもたらします。効果は3~4日で発現し、持続期間は約3~4カ月とされています。

もともと痙性斜頸の治療から応用されましたが、肩こり全員に保険適用は難しく、自由診療で1~4万円が相場です。費用は
使用量や注射部位、薬剤の種類によって異なります。
副作用は強くありませんが、大量投与や頸部筋力が低い人では「首下がり」(上を向きにくくなる)リスクがあります。そのため、少量を複数箇所に分けて打つことが推奨されています。

慢性的・突発的な肩こりでお悩みの方はご相談ください

「痛みやしびれがもっと楽になれば、笑顔を取り戻せるのに」そんな患者さんの“悔しさ”を変えたくて診療してきました。
神経(脊髄)が得意で全身の整形外科手術をしてきた専門医として、首の神経からくる後頚部や肩の痛みの分類には自信があります。これは普通の肩こりではない、「これ以上は手術がいい」という線引きは、約15,000件の様々な手術に携わってきた身だからこそ言えると思います。

沢山の難治例の治療経験もありますので、軽い症状の治療から重い場合には昔のように完全には戻れなくとも一歩一歩の前進を大事に、“悔しさ”を笑顔に変えていきましょう。

監修

整形外科専門医 Dr.沼口大輔

整形外科専門医Dr.沼口大輔

大学 2006年 東邦大学医学部卒 2025年 早稲田大学 大学院経営管理研究科(MBA)修了
資格、学位 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医 MBA(経営学修士)
職歴
2006年 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修)
2008年~ 東京女子医科大病院整形外科 入局
千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む
2013年 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得
2016年 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得
2016年~ 東名厚木病院 医長
脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる
2019年 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得
2024年~ 千葉県内 救急病院に入職
2025年 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得
学術活動

原著論文1

Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis. 2019/04

症例報告

C5/6 hyperflexion sprainの1例 2018/06

原著論文2

環軸関節亜脱臼の診断におけるトモシンセシス撮影の有効性 2017/08

原著論文3

人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例 2012

学会発表

  1. 強直性脊椎骨増殖症に発生した頚椎骨折に対して、前方固定術を施行した1例 (口頭発表,一般)
  2. MRI矢状断像における椎間孔部での狭窄の分類 (口頭発表,一般) 2013/04/25
  3. 脊椎手術において2本ドレンを留置することは術後の血腫による麻痺を防ぐことができるか (口頭発表,一般) 2013/04/25
  4. 椎体骨折偽関節症例に対するBalloon kyphoplasty施行後の隣接椎体骨折危険因子に関する検討 (口頭発表,一般) 2013/04/25
  5. 肩甲上神経絞扼を認めた肩甲切痕部ガングリオンの1例 (口頭発表,一般) 2012/06/23
  6. 外反母趾術後に出現した足底部痛の1例 (口頭発表,一般) 2010/11/16