【再生医療】PRP療法の効果とは?適応疾患を整形外科医が解説

コラムアイキャッチ

PRP療法とは

PRP療法は、多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma)を用いた注射治療法です。血小板は血液細胞の一種です。
血小板は普段はケガなどの損傷部位で止血し、成長因子を放出して組織修復を促します。PRPには白血球も含まれ、抗炎症性サイトカインというものが炎症を抑える効果を持ちます。

この治療は自己血液を活用するため免疫反応が起きにくく、治癒・再生能力を引き出せるのが特徴です。
PRPといっても製剤により細胞なしのものや、多く含まれるものあり様々なものがあります。

整形外科におけるPRP療法の効果

整形外科治療で損傷部位で多い筋肉、靭帯に対する治療(例:スポーツ障害)に加えて、変形性膝関節症といった慢性疾患にも適応が広がってきました。

効果はいつから?

1週間~24週間ほどで組織修復が進行し、治療後2週間から数か月で効果が遅れて感じられることが多いです。

持続期間はどのくらい?

持続期間には個人差が見られますので一様ではありません。現在多くの病院やクリニックで使用されているPFC-FDという治療(PRPの一種で膝の関節内注射を行うもの)については、12か月後でも58.2%の患者で奏功しているとの報告があります。

参考元:松田芳和、JOSKAS vol46:589‐596、2021

【部位別】PRP治療の効果が期待できる疾患

PRP治療は、様々な障害に対して治療を行っています。
それぞれ代表的なものをみていきましょう。

肩腱板損傷に対する手術とPRP

肩腱板損傷に対して、腱板縫合時にPRPを投与する事で腱板が癒合するという良い治療効果への影響が言われています。疼痛スコアと肩関節機能スコアがPRP使用していない場合と比べると有意に改善したという報告があります。
一般には、腱板修復術にPRP療法を併用する事はより治療効果を上げるといった報告が多いです。

ただし、保険医療の手術と、自由診療のPRP療法を現在同じ日に併用する事は混合治療になってしまいますので日本での実施は難しいという面はあります。外来で注射としてPRP治療の部位を肩にすることは自由診療では可能です。

参考元:影山 康徳、整形外科領域における多血小板血漿療法の現況、保険医療学部紀要p7-15、3巻1号、(2012)

テニス肘とPRP

肘については、テニス肘でのPRP報告が多いので、少し紹介いたします。
2019年の上腕骨外上顆炎診療ガイドラインにおいては、PRP療法は「行う事を弱く推奨する」という結果です。これはPRPの調整法や、注射手技が一定でなく、成績が異なる背景があるため従来の保存療法(リハビリや注射など)と比べて有効だと示される一方で、差がないと示される別の報告もあるからです。

参考元:鈴木拓ら、上肢のスポーツ外傷・障害Up to date,関節外科 Vol41 No.12(2022)

変形性膝関節症とPRP

変形性膝関節症の保存治療の大規模なメタ解析という分析で、Jevsevarらは保存治療効果の順位付けを行いました。疼痛に対して、celecoxib(セレコックス、ロキソニンに近い内服薬です)やヒアルロン酸注射よりもPRPは効果が高いと結論付けています。

クリニックで多く使用されるPFC-FD(凍結乾燥血小板因子濃縮液)は、PRPの改良版として変形性膝関節症(OA)に対する有効性と安全性が報告されています。大鶴らの報告では、OA患者302名を対象に単回のPFC-FD注射を行い、12か月後に62%の患者で改善が認められました。副作用は軽度で、主に注射部位の痛みや腫れが報告されました。

しかし、重度(Kellgren-Lawrenceグレード4)のOA患者では効果が低く、改善率が低下する傾向がありました。PFC-FDは初期のOAに対して有望な治療法である一方で、破壊程度が増すと効果が下がる可能性は否めないと私は考えています。
適切な患者様に提案する事が好ましいと考えています。

参考元:Jevsevar DS, et al.: Mixed Treatment Comparisons for Nonsurgical Treatment of Knee Osteoarthritis. J Am Acad Orthop Surg 26: 325-336, 2018.

Freeze-dried noncoagulating platelet-derived factor concentrate is a safe and effective treatment for early knee osteoarthritis

 
膝の痛みに対するPRP療法

腰・脊椎

椎間板性腰痛とPRP

椎間板内にPRP(多血小板血漿)または成長因子の濃縮部分のみ(血小板を抜く)を注射すると、椎間板性腰痛の症状が長期間改善する可能性があります。
研究では、これらの椎間内注射を受けた患者の91%で、5年以上にわたり痛み(VASスコア)や日常生活の支障(RDQスコア)が30%以上改善しました。

抗炎症作用と組織修復効果が改善に影響すると考えられます。
しかし、PRPが椎間板の変性そのものを完全に防ぐわけではなく、長期間で椎間板高が多少減るといったことも報告されています。

参考元:medicina | Platelet-Rich Plasma-Releasate (PRPr) for the Treatment of Discogenic Low Back Pain Patients: Long-Term Follow-Up Survey

(腰部脊柱管狭窄症などの)脊椎固定手術とPRP

脊椎固定術(金属固定)の時には骨を移植するのですが、その時にPRP療法を併用することで良好な骨癒合が得られた報告があります。これは、手術の最終的な成功率にも関与する可能性があると捉えて頂けるといいと思います。

手術において、日本では混合診療というものが関与して実現は難しい可能性が高いですが、効能として、PRPの効果が発揮される場面があります。

参考元:Weiner B.K., Walker M.: Efficacy of autologous growth factors in lumbar intertransverse fusions. Spine; 28:1968-1970, 2003.

足底腱膜炎とPRP

足底腱膜炎は踵部の痛みを起こすもので、従来はリハビリやステロイド注射が手段にあります。また衝撃波という治療も、日本では保険に一部は適応になる形で治療選択されています。

PRPの治療はどこまで有効でしょうか。21件のRCTという信頼がおける研究を元に判断すると、足底腱膜炎に対するPRPは体外衝撃波、ステロイド注射、プラセボ(有効成分を含まない比較薬)と比較しても、疼痛改善に優れていました*1。また別の報告では、PRPの特徴として、ステロイド注射よりも中長期(6カ月以上)の痛みで良好である一方で、短期(3カ月)では差がない報告でした*2。

参考元:*1 Platelet rich plasma therapy versus other modalities for treatment of plantar fasciitis: A systematic review and meta-analysis. Agustin Herber. Foot Ankle Surg. 2024 Jun;30(4):285-293.

*2 Healing Heels: A Meta-analysis of Platelet-rich Plasma vs Corticosteroid Injections in Plantar Fasciitis Treatment. Clevio Desouza et al. Journal of Foot and Ankle Surgery (Asia-Pacific)Volume 11 | Issue 4 | Year 2024

スポーツ障害

スポーツ障害では大谷選手をはじめとして、PRP治療を利用する選手がいます。炎症をおさえる効果が高い事、手術などで戦線離脱しなくていいこと、自分の血液であり有害反応が少ない事から好まれています。

よくあるスポーツ障害とPRPの治療実績について2025年までにわかっているtopicを抜粋してまとめます。

スポーツ障害とPRP

■肉離れとPRP
5件のRCTで268例を対象としたものを示します。発症7日以内の軽微~中等度受傷の分析では、PRP群の方が有意に平均‐5.5日と早く競技復帰できました。
一方で、太もものハムストリングの損傷のみのグループでは、PRP群と対照群で復帰までの時間に差がありませんでした。再受傷率については、6か月以上の追跡でPRPあり/なしに群間差はありませんでした。

参考元:Does Platelet-Rich Plasma Lead to Earlier Return to Sport When Compared With Conservative Treatment in Acute Muscle Injuries? A Systematic Review and Meta-analysis Ujash Sheth,et al. Arthroscopy,2018 Jan;34(1):281-288.e1

■骨折急性期とPRP
系統的レビューといってRCTではないので信ぴょう性は落ちますが、(動物実験など26件と、動物実験9件に加え)臨床研究9件についてまとめています。PRPは骨癒合期間を短縮したが、骨折の癒合率向上には寄与しないことが報告されました。またPRP注入による術後創感染率は上昇させないことが示されました。この結果はPRPの濃度や組成にもばらつきがあるのも要因です。
私見ですが、今後ばらつきを抑えた研究デザインが揃ってくればPRPと骨癒合についてはもっと結果が変わる可能性があると考えています。

参考元:Platelet-Rich Plasma for Bone Fracture Treatment: A Systematic Review of Current Evidence in Preclinical and Clinical Studies, Yangming Zhang et al. Front Med (Lausanne). 2021 Aug 3:8:676033

■骨折慢性期とPRP
スポーツ含めて骨折の慢性期に経過が悪い方では、遷延癒合、偽関節という状態になります。これはうまく骨癒合をしない状況です。2016年にRCTという信頼できる研究結果が報告されています。
長管骨の偽関節患者に対してPRPを骨移植と併用した群は、プラセボ群に比べて治癒率が有意に高く(81.1% vs 55.3%)、治癒までの期間も短縮しました。PRPは遷延癒合や偽関節の治癒促進に有効であることが示されています。

参考元:Effects of Platelet Rich Plasma on Healing Rate of Long Bone Non-union Fractures: A Randomized Double-Blind Placebo Controlled Clinical Trial、Fariborz Ghaffarpasand , Bull Emerg Trauma. 2016 Jul;4(3):134–140.

■肘靭帯損傷
オーバーヘッドでの投球動作を行う競技において、肘の尺側側副靭帯損傷(UCL損傷)が起こる例があります。
UCL損傷について15の研究を取りまとめたRCTの結果(患者数365名、平均年齢20.45±3.26歳)では、PRP使用の有無で、スポーツ復帰の競技復帰率については差がありませんでした。

参考元:Return to Sport After Nonoperative Management of Elbow Ulnar Collateral Ligament Injuries: A Systematic Review and Meta-analysis,Varun Gopinatth. Am J Sports Med. 2023 Dec;51(14):3858-3869.

■足関節捻挫
スポーツ外傷の約11-21%が足関節捻挫(多くは外側靭帯損傷)で最も多く、馴染みのあるものです。小規模とはなりますがRCTを用いて評価すると、足関節捻挫に対してPRPを注射することの明らかな優位性(PRPが優れている)という結果にはなりませんでした。
しかしこれはかなり小規模な結果であることも一因なので、今後は結果が変わるかもしれません。

参考元:Double-blind, Randomized, Placebo-controlled Study Evaluating the Use of Platelet-rich Plasma Therapy (PRP) for Acute Ankle Sprains in the Emergency Department. Adam Rowden. J Emerg Med. 2015 Oct;49(4):546-51.

■膝内側側副靭帯損傷(MCL損傷)
2024年に発表された32例と小規模のRCTからの報告です。MCL損傷においてPRP併用リハビリの例と、超音波治療併用リハビリの群に分けると、2週,6週時点ではPRPが疼痛において有意に良好な結果であるも、12週時点では差が見られませんでした。
ここからは、早期(2~6週)の成績が良好であることから、MCL損傷の管理においてPRP注射は、早期の競技復帰を目指す治療として期待できると言えます。

参考元:Effectiveness of Ultrasound-guided Platelet-rich Plasma Injection vs Pulsed Ultrasound Therapy on Improving Pain and Function in Athletes with Medial Collateral Ligament Injury of Knee: A Randomised Controlled Trial. Laimujam Sobhasini Devi et al.. J Clin Diagn Res. 2024 Jul;18(7):RC01–RC05.

■膝前十字靭帯損傷(ACL損傷)
基本的にACLが断裂した場合は手術適応です。しかし部分ACL断裂(一部は断裂しているが全体ではない、徒手検査では少し緩んだような状態)に対しては手術が絶対とは言い切れず、その場合にPRP注射はどのような効果があるかについて紹介します。
PRP併用リハビリ例21例、リハビリのみの19例の研究において、主観的な評価、競技復帰率、手術に至る確率について調べました。PRPが優位であったという結果は得られませんでした。

参考元:Effects of Platelet-Rich Plasma on Clinical Outcomes After Anterior Cruciate Ligament Reconstruction: A Systematic Review and Meta-analysis. Ting Zhu et al. Orthop J Sports Med. 2022 Jan 31

PRP療法の効果が得られない場合

PRPの効果が得られない事については、個人差(とくに変形性性膝関節症なら病状の進行程度)の範囲が影響することと、注射によって局所的な痛みなどが出たときに効果を感じにくい方がいます。

まとめ

PRPが関与するスポーツ障害や、変形性膝関節症では手術技術だけでなく、患者の状態を的確に見極め、クリニックでできる最大限の治療を行って厳しければ、適切な専門家へ繋げる医師が必要とされています。

私は神経(脊髄)も得意とし、膝を含めた整形外科手術の経験を積んできました。MRIを活用し、正確な診断と最適な治療を提供したいと考えています。

また、私が診療の合間に卒業した早稲田大学の大学院の修士論文では、PRPを題材に、研究発表、論文化をしています。
PRPをはじめとした再生治療はいい治療オプションであり、患者様が安心して受けられるシステムの構築を目指しています。あなたの痛みでできない事やあきらめた事を受け止め、理解した上で、悔しさ笑顔に変えていきましょう。

監修

整形外科専門医 Dr.沼口大輔

整形外科専門医Dr.沼口大輔

大学 2006年 東邦大学医学部卒 2025年 早稲田大学 大学院経営管理研究科(MBA)修了
資格、学位 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医 MBA(経営学修士)
職歴
2006年 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修)
2008年~ 東京女子医科大病院整形外科 入局
千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む
2013年 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得
2016年 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得
2016年~ 東名厚木病院 医長
脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる
2019年 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得
2024年~ 千葉県内 救急病院に入職
2025年 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得
学術活動

原著論文1

Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis. 2019/04

症例報告

C5/6 hyperflexion sprainの1例 2018/06

原著論文2

環軸関節亜脱臼の診断におけるトモシンセシス撮影の有効性 2017/08

原著論文3

人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例 2012

学会発表

  1. 強直性脊椎骨増殖症に発生した頚椎骨折に対して、前方固定術を施行した1例 (口頭発表,一般)
  2. MRI矢状断像における椎間孔部での狭窄の分類 (口頭発表,一般) 2013/04/25
  3. 脊椎手術において2本ドレンを留置することは術後の血腫による麻痺を防ぐことができるか (口頭発表,一般) 2013/04/25
  4. 椎体骨折偽関節症例に対するBalloon kyphoplasty施行後の隣接椎体骨折危険因子に関する検討 (口頭発表,一般) 2013/04/25
  5. 肩甲上神経絞扼を認めた肩甲切痕部ガングリオンの1例 (口頭発表,一般) 2012/06/23
  6. 外反母趾術後に出現した足底部痛の1例 (口頭発表,一般) 2010/11/16