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半月板損傷とは
半月板は膝関節の内外側にある三日月型の軟骨様組織で、荷重を分散し緩衝材の役割を担います。
血流が乏しいため自然治癒が難しく、交通事故やスポーツ外傷、加齢による変性で損傷が生じます。外傷性と加齢による変性断裂があり、生まれつき円板状半月を持つ場合も損傷の要因となります。
特にMMPRT(内側半月板後根断裂)は予後が悪く、膝内で「バキ」「ブチッ」といった音を感じた後に急激な機能低下を引き起こします。
半月板損傷の主な症状
特に内側半月板が損傷しやすく、膝を深く曲げたり捻ると内側後方に痛みが出やすくなります。膝の曲げ伸ばしで引っかかり感があり、炎症による水腫で腫れることもあります。
悪化すると「ロッキング」が起こり、膝が動かなくなり歩行困難となることがあります。箇条書きにすると以下のような症状です。
- 痛みや腫れ
- 関節の可動域の制限
- 膝に水がたまる
- しゃがむと膝内側後方が痛い
- ロッキング(急にひざが動かなくなる症状)
半月板損傷の治療法
半月板損傷には、治療として安静、炎症を抑えるための内服薬、ヒアルロン酸の関節注射や、リハビリがあります。
一方で、断裂部位が大きかったり、MMPRT(内側後根断裂)の場合には、外来治療が効かず手術を選ぶ可能性が高いです。
手術では、断裂部分をトリミングするような半月板切除術と、断裂して切れ目と穴が開いているところを縫合する半月板縫合術があります。
半月板損傷にはPRP療法も効果的
半月板損傷の治療において海外では手術時にPRPを併用する事で、治療の効果を報告しています。550例の解析では半月板単独縫合と半月板縫合+PRPを行った場合では、術後3年の成績においてはPRP投与で明らかに低かったと報告されています。
しかし、日本では混合診療というのが禁止されています。保険診療での手術中に自由診療であるPRPを併用する事はできませんので、タイミングをずらす必要があります(手術後、外来でPRPを行うなど)
Everhart JS,et al. Am J Sports Med 47: 1789–1796(2019)
半月板損傷のPRP療法のメリット・デメリット
メリット
メリットとして、患者様ご自身の血液を使う治療であるため、アレルギーや感染の可能性は低い治療です。
薬に抵抗感がある方でも受け入れやすいです。
デメリット
デメリットとしては、この治療には個人差があることが挙げられます。
効果が確実に全員に得られるといった有効性について十分であるとは言えません。また、感染症を起こしている箇所の治療や、神経を直接治療することはできません。
また、注射に伴う痛みや腫れなどが一時的に起きることがあります。
PRP療法の流れ
PRPの一種であるPFC-FCという治療を例にとって流れを説明します。
- 受診の予約
整形外科担当医の外来を予約 - 初回診察
症状確認とPFC-FD療法の適応判断 - PRP外来(1回目)
血液(約50ml)を採取、感染症検査 - 3週間待つ
PFC-FD製造期間 - PRP再生医療外来(2回目)
PFC-FD注射と経過観察 - 定期的に治療後診察
半月板損傷のPRP療法にかかる費用
| 項目 | PRP療法 | APS療法 | PFC-FD療法 |
|---|---|---|---|
| 概要 | 血液からPRPを抽出し、患部に注射 | PRPを濃縮し、抗炎症物質と成長因子を投与 | PRPから成長因子を抽出・凍結乾燥し保存可能 |
| 効果持続期間 | 6か月程度 | 最大24か月 | ~12か月 |
| 費用(税込) | 4万円程度 | 30万円程度 | 16万程度 |
| 治療に要する期間 | 1日(外来のみ) | 1日(外来のみ) | 約1か月(製造期間3週間を含む) |
| メリット | 副作用が少なく、何度でも受けられる(比較的安価) | 高い除痛効果と長い持続期間が期待できる | 成長因子が高濃度で含まれ、長期保存が可能 |
| デメリット | 効果の持続期間に個人差がある | 費用が高い | 一連の治療工程に時間がかかる |
PRP治療といっても生成方法や構成成分により異なります。
多くの患者様がクリニックで受診した際に、治療選択肢となって認知しやすいのはPFC-FDかと思いますので、初期のPRP療法と比較しての表を提示します。なおこれは2025年現在の価格から算出したもので、今後上下することは充分にありますので、担当の先生に聞きながら治療選択を検討してみてください。
まとめ
半月板損傷は膝の機能に大きな影響を及ぼし、症状の悪化を防ぐためには適切な治療が必要です。
従来の治療法には保存療法と手術がありますが、新たな選択肢としてPRP療法が注目されています。PRP療法は自身の血液を利用し、組織の修復を促進することで痛みの軽減や機能改善が期待できます。
副作用が少なく入院不要な点はメリットですが、効果には個人差があり、自由診療であるため費用負担が生じます。
手術との併用は制度上制約があるため、治療計画を慎重に立てることが重要です。今後の研究によりPRPの効果がさらに明確になれば、より多くの患者にとって有用な治療法となる可能性があります。
監修
整形外科専門医Dr.沼口大輔
| 2006年 | 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修) |
|---|---|
| 2008年~ | 東京女子医科大病院整形外科 入局 千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む |
| 2013年 | 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得 |
| 2016年 | 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得 |
| 2016年~ | 東名厚木病院 医長 脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる |
| 2019年 | 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得 |
| 2024年~ | 千葉県内 救急病院に入職 |
| 2025年 | 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得 |
原著論文1
Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis. 2019/04
症例報告
C5/6 hyperflexion sprainの1例 2018/06
原著論文2
環軸関節亜脱臼の診断におけるトモシンセシス撮影の有効性 2017/08
原著論文3
人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例 2012
学会発表
- 強直性脊椎骨増殖症に発生した頚椎骨折に対して、前方固定術を施行した1例 (口頭発表,一般)
- MRI矢状断像における椎間孔部での狭窄の分類 (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 脊椎手術において2本ドレンを留置することは術後の血腫による麻痺を防ぐことができるか (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 椎体骨折偽関節症例に対するBalloon kyphoplasty施行後の隣接椎体骨折危険因子に関する検討 (口頭発表,一般) 2013/04/25
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