整形外科の労災対応|治療内容や受診の流れ、費用など詳しく解説

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仕事ができなくて給付や補償を受ける場合について

労働者が病気や障害により仕事を続けられず給料などをもらえない場合には、給付や補償があります。
混乱しやすいのは、労災?それとも健康保険?と分かりにくいと思います。整理していきましょう。

保険の種類を確認する

皆保険制度では大きくわけて、組合や企業に所属している人が加入している「社会保険」と、フリーランスや自営業といった方が加入している「国民健康保険」に大別されます。大前提は以下の通りです。

  • 国民健康保険には休業による給付はありません
  • 社会保険には働けない時の給付が適応される場合があります。

労災保険なのか、社会保険からの給付なのか判断する

社会保険をお持ちの方が休業せざるを得ない時に、障害や疾病がどのように起きたかによりどちらを適応するかに差があります。

労働者が休業している場合における、障害原因の発生時期による手続きの違い

手続きの違い

これをもう少し対比した形で表記すると以下のようになります。通院などの費用は2段目、給与に代わるものについてが5段目にあります。

  労災保険 健康保険
給付の対象 業務上通勤による
負傷・疾病
業務災害以外
負傷・疾病
療養費
休業中の診療費など
全額支給 3割自己負担
いつから? 通算して3日の休業 連続した3日の休業
認定に至る方法 書類+医師の診察が必要 書類+医師の診察が必要
日額・期限
いわゆる休業中の給与の代わり
(給付基礎日額の)80%
休業補償給付 60%
休業特別支給金 20%
最長で1年6か月まで *
(標準報酬日額の)2/3
通算で1年6か月までが上限

注)日額の計算には労災保険では給付基礎日額、健康保険では標準報酬日額で算出しますがこれらは計算上若干異なるものです
* 健康保険と異なり、障害補償給付が認められる場合には1年6か月以降も続きます

労災保険とは

大枠がつかめてきた所で、労災保険について整理しましょう。

労災保険とは?

業務上災害または通勤災害により、労働者が負傷した場合、疾病にかかった場合、障害が残った場合、死亡した場合等について、被災労働者またはその遺族に対し所定の保険給付を行う制度です。

対象者とは?

すべての労働者(パートタイマーやアルバイトを含む)となります。

保険料の主なきまり

  • 労働者が1人以上いる会社は強制介入
  • 全額事業主負担
  • 業務遂行性(労働関係を元に起きた災害であること)と業務起因性(業務と疾病との間に因果関係があること)が必要

労災保険の主な給付内容

給付には種類があります。今回は、整形外科クリニックでも対応する治療開始時や治療後を対象に説明していくため、死亡時についての説明は省きます。

補償の種類 治療中 治癒後 死亡時
医療費の補償 療養補償給付
休業分の補償 休業補償給付・
傷病補償年金
障害補償給付 遺族補償給付
その他の補償 介護補償給付 介護補償給付 葬祭料

■ 療養補償給付

  • 療養に対する補償で、全額支給される。
  • 労災病院や指定医療機関で治療を受けられる。

■ 休業補償給付

  • 療養のために欠勤して賃金を受けられないときの補償。通算して、休業4日目から1日につき給付基礎日額の60%額が支給となる。

■ 傷病補償年金

  • 療養の開始後1年6か月経過した日以降にて、疾病が治癒せず障害の程度が傷病等級に該当するときに休業補償給付に代わって支給となる。

■ 障害補償給付

  • 負傷又は疾病が治癒とはなるが、身体に残った障害の程度が障害等級(1~14級)に該当する場合には年金または一時金で支給となる。

■ 介護補償給付

  • 一定の障害によって生じた介護費用に対して支給となる。

整形外科で扱う労災保険適応の例

労災保険は、仕事や通勤中に新しく起こったケガや病気にはわかりやすく適応が検討されます
たとえば、通勤中や業務中の事故・転倒で骨折し、それまで健康だった部位に新たな障害が生じた場合は、労災と認められやすいです。
一方で、もともとの持病や慢性的な症状が少し悪化しただけのケースは、判断が難しくなります。

例として慢性腰痛があります。普段から治療を受けていた方が、通常の勤務を終えたときに少し痛みがあって、その後翌日に急に痛みが強くなった場合などは、「労働中の発症だから労災適用」とはいえないことがあります。
単なる筋肉の凝りによる腰痛や寝違えのように、誰にでも起こり得る症状や、加齢変化によって繰り返しやすいものは、特に判断が分かれます。
したがって、症状の程度・発症状況・勤務内容・既往歴などを総合的に考慮して、労災の適否は検討されることもあります。

通りやすいものについての例

  • 骨折・打撲・捻挫
    例:通勤中の交通事故、現場作業中の転倒や物の落下によるケガなど
  • 腰痛(ぎっくり腰など)、ヘルニアによる下肢痛
    例:重い物の持ち上げ作業や無理な体勢での作業による急性腰痛。明らかに勤務中に因果関係がある形の方が申請しやすいです。重量物を持ち上げた瞬間に痛みが走り、仕事を痛みで中断して受診する等の状況に至っていると因果関係が分かりやすいです。

その他、多数のケースがありますが、沢山の職種や作業状況がありますので文章にして必ずこの障害は通る、通らないと明言しにくいところがあります。迷ったら会社と医療機関にまずは相談されるのがいいと思います。

整形外科で行われる労災治療

労災保険での治療は、一般治療と異なるかと言われると治療内容に差はありません。医師としては通常通りの治療を変わらず行います。
治療期間については最大でも1年6カ月をひとつの区切りと考えながら治療検討していく点が異なります

投薬

投薬においては、痛みに対してはロキソニンなどの内服薬、湿布薬などを処方します。
神経性の痛みやしびれについては、メチコバールといってビタミンB12の投薬や、リリカ、タリージェといった神経障害性疼痛薬を処方することがあります。

神経ブロック注射

保存治療でも改善しない場合には、細かい検査を行ってから各種ブロック治療を行うことがあります。

装具療法

腰痛での腰部固定帯固定や、肋骨外傷でのバストバンド、むちうち(頸椎捻挫や頚肩腕症候群)についての頸椎カラーを処方して患部を安静にする治療として用います。
また、神経障害で脚が効かないときに、短下肢構成装具といって足をサポートする装具を出すこともあります。

リハビリテーション

電気治療・温熱療法・超音波療法など物理療法や運動器療法といった治療があります。

受診の際にご用意いただく書類

労災保険で治療を受けるには、所定の申請書類が必要です。書類は勤務先で相談されるか、労働基準監督署で直接受け取るか、厚生労働省ホームページからダウンロード可能です。

初めて医療機関で治療を受ける場合

労災保険を受け付けている医療機関とそうでない医療機関があります。
労災保険対応している医療機関はどこなのか?まずは検索できるようにしましょう。
厚生労働省の「労災保険指定医療機関検索」をされるといいです。

効率的に探す為にはポイントがあります。まず所在地選択をした後に「全て選択」または所轄の区域の労働基準監督署をチェックしてから、「科の選択(整形外科)」を行っていくと効率よくご自身の調べたい場所の医療機関が検索できます。
労働基準監督署についてのチェックをしないで進むと全国の医療機関の検索がすべて出るので注意してください。

全国の医療機関の検索
全国の医療機関の検索
診療科目から検索

どうしても困る場合には、厚生労働省の労災保険ダイヤルもあります。
0570-006031(土日祝を除く9-17時)

転居・リハビリ等で医療機関を変更して治療を受ける場合

  • 業務災害では、労災申請の代表的な書類である療養補償給付請求書 (療養補償給付たる療養の給付請求書様式第5号)を書く事になります。
  • 通勤災害では、別の書式(療養給付たる療養の給付請求書 通勤災害用 第16号の3)を書く必要があります。
  • 指定医療機関を変更する場合には、上記に対する変更書類がそれぞれ必要(第6号第16号の4)となります。労働基準監督署に提出が必要になります。

指定医療機関であれば事業主証明が付された請求書を医療機関窓口に提出して、そのまま労基署へ送られる手続きもあるので、変更前の医療機関窓口で相談もご検討ください。

書類については、以下のホームページからダウンロードできます。
厚生労働省 | 主要様式ダウンロードコーナー

労災で整形外科を受診する流れ

労災で受診する場合(ケガなどの障害の場合)について、患者さんの取り乱している心情を考えつつ、医師としての私見で提案します。

緊急性が高い状態の場合

事故や障害の痛みで動けない、出血があきらかに尋常でない状況など。この場合には労災かどうかは関係なく、まずは医療機関に車で運んでもらうか救急車を呼んで、治療が受けれる医療機関に行くのを優先しましょう。書類などはもちろん後回しです。

救急車に乗るほどではないが痛みがひどい、血が止まらないなど、急いでいる場合

会社に医療機関にかかると伝えて受診に向かう。労災でいいかどうかは一度確認しましょう。

この時に会社側も「労災でいいのか、悪いのかすぐわからない」場合が多いです。
業務中または通勤での障害発生で、労災適応な状況ならば、用紙の5号又は、16号の3の事業主証明欄などを書いてもらい持参する(焦っていたらできなくても全然大丈夫)
受診後に会社側が事故を評価して労災手続きになることは多々あるので、受診時に労災か労災じゃないか完全に確定できなくても大丈夫です。

何科にかかればいいの?

  • 頭と顔、腹部以外の全て⇒「整形外科」へ
  • 頭⇒「脳外科」へ
  • 顔⇒「形成外科」へ (目は眼科、歯は歯科又は口腔外科です)
  • 腹部⇒「外科」へ

受診場所については、緊急の場合は事故、障害発生場所でGoogle mapを作動して近い、またはご自身が行きたい医療機関を選定します。
(検索例:新江古田駅×整形外科 など)

おすすめは、電話をかけて労災対応かを聞きましょう。労災指定医療機関が最善ではありますが、緊急時には労災指定外の医療機関でも全くダメではありません。

労災指定医療機関 を受診する場合

初診・継続治療:

  • 業務災害 → 様式第5号(療養補償給付たる療養の給付請求書)
  • 通勤災害 → 様式第16号の3(療養給付たる療養の給付請求書)

患者さんが窓口で負担する必要はなく、医療機関が労災保険へ直接請求します。

労災指定外の医療機関 を受診する場合

後日に様式第7号(療養費用請求書) を患者本人が労働基準監督署に提出します。
その場合、診療当日は患者さんがいったん治療費を全額自己負担し、後日の払い戻しになります。

書類の取り方

  • 会社からもらう
  • 労働基準監督署で交付を受けるか、厚労省HPから申請用紙を印刷して準備します。

医療機関にかかる前に、会社で書いてもらうところ「事業主証明欄」などは漏らさず書いてもらいましょう

保険会社への連絡

交通事故で車両保険が絡む場合には保険会社が関与します。相手または自車の保険会社にどこの医療機関にかかるかを連絡もしておきましょう。
労災保険自体は民間保険会社が関与しない仕組みなので、車両に関わる事故の場合には、乗り物に関わる保険会社にも連絡がいると頭の片隅に置いてください。

労災治療にかかる費用負担について

労災治療の費用負担については、労災指定医療機関に、所定の用紙を用意して持参できた場合には、窓口負担はありません。
しかし、労災指定ではない医療機関にかかったり、労災指定の医療機関でも書類なしでとりあえず来院した場合については一度建て替えを行い、後日書類とともに申請すれば戻る仕組みになっています。

窓口負担ではなく、額面がどうなるかについて調べたい場合には、「労災保険の主な給付内容」をご覧になってください。

まとめ

私は整形外科の2次・3次救急で、多くの労働災害や通勤災害に向き合ってきました。開放骨折や脊髄損傷といった重症例もあり、労災は障害の大きさだけでなく企業の姿勢や患者様との関係が治療や心理に影響する奥の深い分野だと痛感しています。

医師はどこでも一緒ではなく、障害等級の有無を正しく判断するには、要点を押さえた定期的な検査や診察を行う主治医の姿勢が欠かせません。

患者様の中には「欠勤で迷惑をかけている」と悩み、企業側に言い返すのが気まずくて労災を適用されないまま辛い経験をする方もいました。
私はまず患者様が安心してMRIなどの検査や治療を受けて障害を認知・受容し、自分の権利を正しく理解して、休業などで起こる心の重荷を少しでも軽くできるように努めています。

必要とあればリハビリや注射、内服などを含めて、しっかりと治せるように対応を検討します。労災に関わる新規の方でも、治療途中で医師を代えたくなった方も、是非沼口までご相談ください。

監修

整形外科専門医 Dr.沼口大輔

整形外科専門医Dr.沼口大輔

大学 2006年 東邦大学医学部卒 2025年 早稲田大学 大学院経営管理研究科(MBA)修了
資格、学位 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医 MBA(経営学修士)
職歴
2006年 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修)
2008年~ 東京女子医科大病院整形外科 入局
千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む
2013年 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得
2016年 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得
2016年~ 東名厚木病院 医長
脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる
2019年 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得
2024年~ 千葉県内 救急病院に入職
2025年 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得
執筆・共著

Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis

Spine Surgery and Related Research 3巻 2号
発行元 Spine Surgery and Related Research

65歳以下単椎体骨折症例にて2週間のベッド・アップ30°制限とした場合の,単純X線変化について

日本整形外科学会雑誌
(日本整形外科学会骨・軟部腫瘍学術集会抄録集)
94巻 3号

脊椎手術における術後頭蓋内出血についての検討

Journal of Spine Research 8巻 3号
発行元 日本脊椎脊髄病学会

上腕骨近位端骨折に対し腓骨骨幹部移植を行った2症例

JOSKAS 44巻 4号
発行元 日本膝関節学会

人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例

関東整形災害外科学会雑誌 43巻 1号
発行元 関東整形災害外科学会