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腰痛の症状と原因
腰痛は疾患名ではなく、痛みや違和感の総称であり、急性腰痛と慢性腰痛に分類されます。原因不明の非特異的腰痛が85%、特定可能な特異的腰痛が15%と報告されています。
腰痛の原因が分類しにくい理由は3つあります。
① 多様な痛みの発生源
腰椎の関節や椎間板、筋膜などが痛みの要因となり、加齢やスポーツ、重労働で悪化します。
また、高齢者では椎体骨折が主な原因になります。
② 内臓疾患との関連
膵臓・胆管系や大血管の疾患でも腰痛が生じるため、内科的な視点も必要です。
③ 自然治癒の影響
腰痛は時間とともに改善することが多く、検査時に痛みがない場合もあります。全員にMRIを行うと医療費が増大するため、慎重な判断が求められます。
結論:腰痛の原因は多岐に渡り、個々の経過も異なるため、適切な診断と対応が必要です。
腰痛で病院に行っても意味ないと言われる理由
医療者は腰痛で病院やクリニックが無意味とは考えませんが、一部の対応によりそう思われる現状を重く受け止め、整形外科の意義を見直す必要があります。
患者さんが期待できないと思う気持ちには以下の要因が影響していると考えます。
- 骨に異常がなく腰痛の原因が特定できないと言われる
- 対症療法のみで原因療法(根本的な治療)を行われていない
- 医師の知識や経験不足
- 再発予防の対策が不十分
18年間、手術・ブロック・リハビリを行ってきた私の立場からも、診断や対応が難しい腰痛患者がいることは確かです。
診断精度においてMRIの有無は大きな差を生みますが、クリニックによってはレントゲンのみで対応し、MRIを活用しない(読影ができない)医師に当たると、原因が不明のままブラックボックス化することもあります。
また、多くの腰痛は仕事と密接に関係しており、辞職や部署異動が容易でないため再発を繰り返すケースが多く見られます。そのため、再発の予兆を見極め、適切に対応することが整形外科医の技量の差となります。
骨に異常がなく原因が特定できない
クリニックや病院はまずレントゲンを撮影し、骨折の有無や腫瘍がないか、関節の状態を評価します。これは保険上は理にかなっています。
しかし、高齢者では過去の骨折が蓄積し、新しい骨折か判断しづらいため、時間を置いて比較することが重要です。一方、レントゲンを1回しか撮らない医師では診断が不十分になり、「骨に異常なし」と片付けられることもあります。
MRIは筋肉・靭帯・神経・椎間板などを評価するのに優れますが、腰痛の原因を自動的に示すものではありません。
また、MRIが読めない、苦手な医師も存在します。診断には、レントゲン・CT・MRI・診察・問診を総合的に統合したり評価する力が求められ、その能力の差が診断精度を左右します。
根本的な治療(原因療法)が行われていない
根本的な治療が行われていないと感じる場合、医師の説明不足も一因です。腰痛の多くは一過性であり、時間経過とともに自然治癒するものも多いため、医師は危険性を除外したうえで内服薬を処方し、経過観察することが一般的です。
早急な注射は患者の恐怖感を高めたり、過度な期待や心が依存する場合も生むことがあり、慢性的な通院につながるリスクもあります。そのため、「早急な注射をせず様子をみましょう」と提案することが多いです。
大切なのは同じ医師にかかることです。医師が患者の経過を把握し、治療方針を適切に調整できるため、治療の質が向上します。
また、患者の状況に応じた適切な対応が重要で、すべての人に深い検査が必要とは限りません。医師は患者の希望や生活環境を見極め、最適な治療を提供する事が求められます。
医師の知識や経験不足
腰痛の原因は多岐に渡り、高齢者ではいつのまにか骨折(圧迫骨折)や加齢変化が多く、もともと「異常な状態」にあることが少なくありません。そのため、医師は今までの異常の中から今回の症状を引き起こしている要因を見抜く「間違い探し」のような診断を行います。
それは、過去画像の照らし合わせなども行います。若手医師は検査結果を見ても組み立てが難しく、診断に戸惑うことがあります。手術経験のある医師は術前後の比較を通じて治療で何が改善し、何が残るかを仮説検証し、解決策の引き出しを増やしてきました。
重要なのは「適材適所」です。患者が何に困っているかを見極め、最適な方法で安心と納得を得られる治療を提供することが求められます。
腰痛で病院を受診すべきケースと診療科
腰痛で病院を受診すべきケースについては、以下の場合には受診したほうがいいと考えます。
すぐに受診すべき場合
- 初めての腰痛で、起き上がるのに毎日10分近くかかる
- 夜中に痛みで起きる、寝返り不可
- 転倒後、痛みが減らず、仰向け不可
- 歩くと腰が詰まるような重だるさや痛みが増す
- 冷や汗を伴う腰痛
- 原因不明の発熱が続き、腰痛
- 座位・立位で痛みが続き、改善せず
- 臀部や脚の痛み、しびれも伴うもの
以下の場合には少し様子をみてから、悪化するようなら受診を検討したほうがいいと考えます。
少し様子をみてもいい場合
- 明確な捻った原因があり、日常生活にほとんど支障がない
- 通常2日で治る腰痛が4~5日続き、不安を感じる
- コロナやインフルエンザで自宅待機中に腰痛が出た
腰痛に対して整形外科では何をする?
検査内容
腰痛に対して、整形外科では多くの場合
- 問診
- 診察
- レントゲン
- 現在の原因、診断名を伝える
- (必要時)内服薬の選定
- (必要時)リハビリの導入
- (必要時)MRI検査
- (必要時)注射
- (神経症状などがなかなか取れない時)ブロック注射
これらの診察、検査、治療を組み合わせていきます。
治療方法
内服薬
腰痛の原因として、痛みの一般的な内服薬を始めます。
年齢や胃潰瘍の有無、高齢に従い腎臓の障害があるかどうかで、内服薬の選定は変わります。
大きくアセトアミノフェン系かロキソニン系を選択したのち、筋弛緩剤を合わせて処方します。
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【アセトアミノフェン(例)カロナール】
- 他にこの系統として処方するものはアセトアミノフェン
- 解熱作用〇、鎮痛作用〇、抗炎症作用×
- 主な副作用:肝障害
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【NSAIDs(例)ロキソニン】
- 他にこの系統として処方するものはロキソプロフェン、ボルタレン
- 解熱作用〇、鎮痛作用〇、抗炎症作用〇
- 主な副作用:胃潰瘍、腎障害
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【筋弛緩剤(例)ミオナール】
- 他にこの系統として処方するものはテルネリン、エペリゾン、リンラキサーなど
- 筋弛緩作用
- 主な副作用:眠気、ふらつき
注射については、トリガーポイントという浅いところに打つ注射と、ブロック注射を行う事が一般的です。細かく説明すると長くなってしまうので、この二つについて説明します。
【トリガーポイント注射】

トリガーポイントというのは、腰や肩、首などに強く痛みを感じる点の事で、指で患者さんが指し示せる部位です。筋肉内に硬いしこりのような部分(緊張帯)があります。その部位がトリガーポイントと考えられています。
注射では圧痛点があるところに局所麻酔薬を注射します。
対処のひとつであり、根本解決ではないのですが繰り返す事で傷みを除去する効果があります。
【ブロック注射】

私が腰痛に対して行ってきたブロック注射には、神経根ブロック(神経の一部は腰痛に関与するので)、椎間板ブロック(椎間板への注射)、仙腸関節ブロック(仙腸関節への注射)があります。
今回は仙腸関節ブロックについて少し取り上げます。
仙腸関節は腰椎と骨盤のつなぎ目で、前面に神経が通っています。そのため、炎症が起こると腰痛だけでなく下肢痛を伴うことがあります。特に、妊娠中や産後の女性は仙腸関節の痛みが生じやすい傾向があります。
内服やリハビリで改善しない場合に仙腸関節ブロックを検討しますが、妊娠中や授乳中の方には施行できません。
それ以外の方には実施可能です。
腰痛検査や治療の料金、保険適応について
検査や治療にかかる費用相場については手技量について記載すると以下のようになります。
診察料や検査料などは含まれていないので、料金を気にされる場合はおかかりのクリニック内で確認を勧めます。また保険料は数年に一度全国一律で適宜変わっていくものであることをご理解ください。
トリガーポイント注射 |
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神経根ブロック |
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仙腸関節ブロックは、トリガーポイントとほぼ同様の保険点数です。
整骨院との治療にかかる違いについてですが、整骨院ではMRIを含む検査、内服処方、注射、リハビリができません。
整骨院では施術といって、リハビリとは異なるアプローチで治す事はしてくれます。詳しくは以下をご覧ください。
腰痛でお悩みの方は一度ご相談ください
「痛みやしびれがもっと楽になれば、笑顔を取り戻せるのに」そんな患者さんの“悔しさ”を変えたくて診療してきました。
神経(脊髄)が得意で全身の整形外科手術をしてきた専門医として、腰痛については手術をすればこれが治る可能性が高い、これは治る可能性が低いという見立てができる医師です。
大学病院や救急病院を中心に約15,000件の様々な手術に携わってきた身だからこそ、適切な提案をして無駄な時間を省いて正解に近づけたいと思っています。
難治例の治療経験もありますので、昔のように完全には戻れなくとも一歩一歩の前進を大事に、“悔しさ”を笑顔に一緒に変えていきましょう。
監修

整形外科専門医Dr.沼口大輔
2006年 | 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修) |
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2008年~ | 東京女子医科大病院整形外科 入局 千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む |
2013年 | 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得 |
2016年 | 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得 |
2016年~ | 東名厚木病院 医長 脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる |
2019年 | 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得 |
2024年~ | 千葉県内 救急病院に入職 |
2025年 | 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得 |
原著論文1
Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis. 2019/04
症例報告
C5/6 hyperflexion sprainの1例 2018/06
原著論文2
環軸関節亜脱臼の診断におけるトモシンセシス撮影の有効性 2017/08
原著論文3
人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例 2012
学会発表
- 強直性脊椎骨増殖症に発生した頚椎骨折に対して、前方固定術を施行した1例 (口頭発表,一般)
- MRI矢状断像における椎間孔部での狭窄の分類 (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 脊椎手術において2本ドレンを留置することは術後の血腫による麻痺を防ぐことができるか (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 椎体骨折偽関節症例に対するBalloon kyphoplasty施行後の隣接椎体骨折危険因子に関する検討 (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 肩甲上神経絞扼を認めた肩甲切痕部ガングリオンの1例 (口頭発表,一般) 2012/06/23
- 外反母趾術後に出現した足底部痛の1例 (口頭発表,一般) 2010/11/16