テニス肘(上腕骨外側上顆炎)とは?原因・症状・治療法を専門医が解説

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テニス肘(上腕骨外側上顆炎)とは

テニス肘

引用元:肩・肘・手の主な病気:テニス肘 | 患者さんへ | 東邦大学医療センター大橋病院 整形外科

テニス肘(上腕骨外側上顆炎)は、肘の外側に痛みが出る疾患です。特に、物をつかんで持ち上げる動作や、手をひねる動作で痛みが強くなりやすいです。

この疾患は症状が長引くこともあり、安静にしていても痛みが続く安静時痛や、夜寝ているときに痛む夜間痛が出ることもあります。そのため、仕事や日常生活に支障が出ることもあります。

痛みを放置すると休業や転職が必要になることもあるため、早めの対策や治療が大切です。

テニス肘になりやすい人の特徴

40代半ばから受診者が増えて、40代と50代で全体の65%程度と言われています。活動性の高い60代にも起こりやすく、男女比はほぼ同数と言われています。

この疾患はスポーツをする方に多く見られますが、実は重いものを持つ仕事や手をよく使う仕事をしている方にも起こりやすいです。
例えば、介護・看護・保育といった重労働の仕事やPC作業を長くする方にも増えています。今後、パソコン作業や介護などの仕事をする人が増えることで、この疾患に悩む方も増えると考えられます。

テニス肘の症状

重い物を腕を使って持ち上げる動作全般で痛みを感じますが、特に顕著なのは雑巾など力を入れて絞る作業での痛みの出現です。

テニス肘の原因

テニス肘は、短橈側手根伸筋腱の変性断裂による付着部障害であり、慢性的な負荷で腱が変性・断裂し、治癒が遅れることで痛みが持続します。
テニスが原因となる割合は実は低く(6.1%との報告あり)、主な発症要因はコンピューター使用、重量物運搬、介護職などの作業によるものが多いとされています。

テニス肘の診断・検査方法

テニス肘には特徴的な身体検査があります。これらの検査を行いながら、判断が付きにくい場合にはMRI検査で確定診断を得る事もあります。

  1. Thomsenテスト
    ・患者さんに肘や手を伸ばしてもらい、拳を握らせて手首を背屈させる。その時に上腕骨外側上顆に疼痛が強いと+と判断するテストです。
    Thomsenテスト
  2. Chairテスト
    ・肘を伸ばしたまま手で椅子を持ち上げてもらうテストです。診察室では、椅子を掴ませるのは重いので自宅などで自分がテニス肘ではと簡易的に疑うにはいいテストであると言えます。
    Chairテスト
  3. 中指伸展テスト
    ・肘を伸ばしたまま中指を伸ばしてもらい、指の根本をおさえてあげさせないようにすると上腕骨外側上顆に痛みがでるものを+としています。
    中指伸展テスト

引用元:上腕骨外側上顆炎(テニス肘)とは | 森整形外科 リハビリクリニック

テニス肘の治療法

テニス肘では、炎症が筋付着部という所でおきており、痛みが強く動作が困難な場合があります。
治療方法としては以下のような方法があります。

  1. 内服(消炎鎮痛剤) ロキソニンなど
  2. マッサージ、リハビリ
  3. ステロイド注射
  4. PRP治療
  5. 手術

患者さんの状態に合わせて、治療を選択していきます。

保存療法

消炎鎮痛薬

内服で消炎鎮痛薬を用いることがあります。ロキソニンや、カロナールといったものです。

リハビリ

リハビリでは、ポイントである肘関節をのばして、手関節を伸ばすまたは手関節を持ち上げるのが悪化させます。それゆえ、リハビリで注意して指導していくのは要点があります。

  • PC作業でアームレストを利用して手関節を下に垂らしながら作業をする(手根伸筋を緊張させない)
  • 重い物を持つときに手のひらが上に向くようにして持ち、使う筋肉を変える。
  • 安静も重要なので、逆の手でやれることを増やしてテニス肘側の仕事量を減らす。
  • 安静の一種として、肘バンドをまいて筋肉の仕事量を減らす。

ステロイド注射

ステロイド注射はステロイド(副腎皮質ステロイド)に抗炎症作用があり、痛みや腫れを抑える効果がありそれを障害部位に注射します。テニス肘においては、炎症が原因で痛みが続いている場合に、局所にステロイドを注射することで症状を軽減することが期待されます。
ステロイド注射のメリットは、即効性があること、リハビリが相乗効果で進みやすいことです。
ステロイド注射のデメリットは、効果は一時的であり、根本治療にはならない事や、繰り返し注射すると腱や軟部組織が脆弱化し、腱の断裂のリスクが上がります。

テニス肘バンド

痛いところを圧迫して安静ができます。仕事をするときに使うと痛みを軽減できることが多いです。

PRP療法

PRP(Platelet-Rich Plasma)とは、患者さま自身の血液から抽出した多血小板血漿(PRP)を体の修復が必要な部位に注射で治療する方法です。テニス肘のPRPについて紹介します。

2019年の上腕骨外上顆炎診療ガイドラインにおいては、PRP療法は「行う事を弱く推奨する」という結果です。
これはPRPの調整法や、注射手技が一定でなく、成績が異なる背景があるため従来の保存療法(リハビリや注射など)と比べて有効だと示される一方で、差がないと示される別の報告もあるからです。

参考:鈴木拓ら、上肢のスポーツ外傷・障害Up to date,関節外科 Vol41 No.12(2022) 

PRP療法とは?

手術療法

2800例のテニス肘(上腕骨外上顆炎)についての加藤らの報告では、手術に至ったのはわずか20例で0.7%と低いです。他の報告でも手術に至るのは1%程度ではないかと言われています。

手術は短撓側手根伸筋腱という損傷している筋の損傷部分を切除して、関節包という関節の袋を切開、開放するような手術です。

テニス肘を放置するとどうなる?

テニス肘は、前述の通り、0.7%~1%が手術になるので少ない確率ではあります。しかしその多くは45歳から55歳の間で、肘の外側だけでなく腕橈関節といって肘の中枢の関節が傷むと手術になることも気を付けないといけません。
これは骨髄内病変というものが発生してしまうことに関係しています。放置してどんどん悪くなると、手の不自由さで日常生活がうまくいかなくなるので、仕事も変えないといけなかったり、スポーツも楽しめなくなったりすることは避けたいところです。
それゆえ、早期からの整形外科への受診を勧めます。

まとめ

テニス肘(上腕骨外側上顆炎)は、手や腕を繰り返し使用することで発症する疾患で、特にテニスやデスクワーク、介護職などでよく見られます。
主な症状は肘の外側の痛みで、握る・持ち上げる・ひねる動作で悪化します。診断には身体検査やMRIが用いられ、治療は保存療法(サポーター、薬、リハビリ)、PRP療法、手術が選択されます。
多くは保存療法で改善し、手術が必要になるのはごく一部です。放置すると長期的な痛みや生活の質の低下につながるため、早期の対策が重要です。

監修

整形外科専門医 Dr.沼口大輔

整形外科専門医Dr.沼口大輔

大学 2006年 東邦大学医学部卒 2025年 早稲田大学 大学院経営管理研究科(MBA)修了
資格、学位 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医 日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医 MBA(経営学修士)
職歴
2006年 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修)
2008年~ 東京女子医科大病院整形外科 入局
千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む
2013年 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得
2016年 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得
2016年~ 東名厚木病院 医長
脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる
2019年 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得
2024年~ 千葉県内 救急病院に入職
2025年 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得
学術活動

原著論文1

Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis. 2019/04

症例報告

C5/6 hyperflexion sprainの1例 2018/06

原著論文2

環軸関節亜脱臼の診断におけるトモシンセシス撮影の有効性 2017/08

原著論文3

人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例 2012

学会発表

  1. 強直性脊椎骨増殖症に発生した頚椎骨折に対して、前方固定術を施行した1例 (口頭発表,一般)
  2. MRI矢状断像における椎間孔部での狭窄の分類 (口頭発表,一般) 2013/04/25
  3. 脊椎手術において2本ドレンを留置することは術後の血腫による麻痺を防ぐことができるか (口頭発表,一般) 2013/04/25
  4. 椎体骨折偽関節症例に対するBalloon kyphoplasty施行後の隣接椎体骨折危険因子に関する検討 (口頭発表,一般) 2013/04/25
  5. 肩甲上神経絞扼を認めた肩甲切痕部ガングリオンの1例 (口頭発表,一般) 2012/06/23
  6. 外反母趾術後に出現した足底部痛の1例 (口頭発表,一般) 2010/11/16
執筆

Journal of Spine Research 7巻 3号
発行元 日本脊椎脊髄病学会

1-P23-2. 髄液漏を伴った脊椎手術術後に頭蓋内出血を併発した3例