外傷性頸部症候群(むちうち)は、画像上の問題といった他覚所見に乏しく、自覚的な症状が中心となる疾患です。
後頸部痛を主訴とし、頭痛やめまい、吐き気など多彩な症状を伴うことがあります。
リハビリについて今回は説明いたします。
目次
むちうち治療でリハビリが重要な理由とその効果
むちうちには原因が解明されていない部分もありますが、主に二つの病態が関与しているといわれています。
- 追突時の過伸展障害による椎間関節痛
- 遅れて発生する持続性筋緊張
① 追突時の頸椎過伸展障害とは
自車に対しての後方からの衝突事故によるむちうちを例にすると、衝突をうけた瞬間には、頭は後方に振られます。
頸はまず過伸展(顎が上を向く)になります。その後にブレーキや前方にぶつかるなどで上半身や頭は、ハンドルのある車体前方に思い切り振られます。
この大きな動きの中で、最初の過伸展の際に頸の骨は椎間関節という関節が衝撃をうけて滑膜炎という炎症をおこして痛みを出します。
② 遅れて発生する持続性筋緊張とは
報告によれば、約40%の患者さんが受傷から時間を経てから1~3日後に頸部痛が増えてくる報告があります。
これは「受傷による軽度の疼痛で起こる筋収縮により、血行不良を起こして疼痛物質の蓄積がおきて疼痛となる」と言われています。
つまり血行が絡んだ持続性筋緊張が原因と言われています。
とくに遅れて起こる持続性筋緊張が慢性化していくことで多彩な症状が出てくるので、リハビリでコントロールするのは、慢性化に進行をさせにくくする方法として有効です。
整形外科で行うむちうちのリハビリ内容
むちうちリハビリの段階的な進め方
受傷直後〜慢性期までの経過に応じて5段階に分けてリハビリを行います。
むちうちに対する徒手、理学療法それぞれの時期で「徒手療法(セラピストが行う手技)」と「理学療法(運動や指導)」の目的と内容が異なります。
ここで述べているのは指針であり、必ずリハビリが全部の期間に必要なわけではありません。前提として、セラピストにより内容の変更もありますし、医師の判断や、痛みが改善したら終了にもなることもあります。
■ 急性炎症期(受傷直後〜約1週間)
目的:炎症と痛みを抑え、二次障害を防ぐ
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 徒手療法 | 炎症が強いため直接刺激は避けます 軽い接触・頸部の位置調整、安静肢位での軽度モビライゼーションにとどめます |
| 理学療法 | ホットパックや軽度の冷却を使い分けて炎症・緊張を抑制します 疼痛の強い場合は短時間の頸椎牽引で除圧します 電気刺激療法(TENSなど)による疼痛緩和します |
| 要点 | 絶対安静は避け、過剰固定による拘縮(固まる事)を防止します 痛みを誘発しない範囲での自然な動作を維持していきます |
■ 亜急性線維化期(受傷から1〜3週)
目的:固まり始めた関節・筋の動きを回復する
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 徒手療法 | 関節モビライゼーションを中心に実施します 特に低可動な部分に対して軽い滑りを加え、関節包や靱帯の伸縮性を戻します 深層屈筋群の働きが戻るように刺激を与えていく。 |
| 理学療法 | 温熱療法(ホットパック、マイクロ波など)で軟部組織の伸張性を高めた後に
牽引や電気刺激を併用します ピリピリする電気をあてて、痛みの信号を弱めます。痛みの“通り道”を少しの間ふさぐような効果があります(ゲートコントロール理論) |
| 要点 | モビライゼーションと物理療法の併用が最も推奨される時期です (JPTAガイドライン推奨A) 関節を“動かす治療”に入る初期段階です |
■ 回復改善期(受傷から3〜6週)
目的:安定性と協調性を取り戻し、姿勢を再確認する
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 徒手療法 | スタビライゼーション(安定化)訓練を導入します 頸椎の深層屈筋・伸筋の協調性を高めていきます 首や背骨のゆがみやズレを整えることを目的とした姿勢矯正も始めます |
| 理学療法 | 温熱・牽引・電気治療を継続し、血流・代謝改善を支援します 運動後に軽い冷却で炎症再燃を抑えます |
| 要点 | 低負荷・低可動域・低スピード(3L原則)で正確な動きを再学習します。 姿勢保持筋群の最適な動きの確認をします。 |
補足:正しい姿勢と首の安定を取り戻すトレーニングを始めます。
強い負荷ではなく、正確な動きを覚えることが大事です。
■ 回復再生期(受傷から6週〜3か月)
目的:筋力と持久力を取り戻し、社会・仕事復帰を目指す
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 徒手療法 | 局所の筋・筋膜リリース、関節可動域の再調整などを補足して適宜行います 必要に応じて牽引+後退運動(TRER法:traction, retraction, extension, rotation) |
| 理学療法 | 温熱と牽引を併用し、筋緊張と血流のバランスを保つ |
| 要点 | 頸椎・肩甲帯・体幹の連動性を再獲得。 日常動作や職業動作に対応した“実践的リハ”段階。 |
■ 慢性改変期(受傷から3か月以降)
目的:慢性化を防ぎ、再発しにくい身体へ
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 徒手療法 | 首や背中の動きが慢性的に硬くなった部分を、手でやさしく動かして本来の動きを取り戻します。 姿勢のバランスを整え、奥の支えの筋肉をしっかり使えるようにすることで、こりや痛みを繰り返さない体づくりを目指します |
| 理学療法 | 感覚運動制御訓練(関節位置覚、眼球運動、バランス)を中心に、温熱や電気療法で疼痛コントロールを補助 |
| 要点 | 再発予防(姿勢・生活習慣・心理面の調整) 自己管理・ホームエクササイズが治療の中核となります |
引用元: 板場英行:「頸椎捻挫と徒手理学療法」『理学療法学』第41巻第8号,2014,630–638頁
電気療法
電気療法は、筋肉に微弱な電流を流して痛みを和らげる物理療法です。
むち打ち症では、患部の皮膚上に電極パッドを貼り、心地よい刺激を感じる程度の電流を数分~15分ほど流します(TENS:経皮的電気神経刺激法など)。
患者さんはリラックスした体勢でベッドや椅子に座って受けます。
電気刺激により「痛みを脳に伝える神経の信号を一時的にブロック」し、同時に脳内でエンドルフィン(自然の鎮痛物質)の分泌が促されます。
温熱療法
温熱療法は、筋肉や関節を温めて血流を改善し、こりや痛みをやわらげる治療法です。
ホットパックやマイクロ波装置を患部(首や肩)にあて、15〜20分間温めます。温めることで毛細血管が拡張し、筋肉の柔軟性が増し、痛みの軽減と可動域の改善にもつながります。
ただし、急性期は熱刺激で炎症が悪化する場合があるため、発症後数日は避け、痛みが落ち着いてから行います。
牽引療法
牽引療法は、首をやさしく引っ張って、神経や関節の圧迫を減らす物理療法です。
専用の頸椎牽引装置を用い、座位または仰臥位で2〜10kg程度の牽引力をかけ、1回10〜15分程度行います。
牽引により椎間板や椎間関節の隙間が広がり、筋肉の緊張が和らぎ、血流が改善されます。慢性期ではTRER法(牽引+後退+伸展+回旋)の一部としても応用されます。
ただし急性期や強い神経症状がある場合は適応を慎重に判断します。
運動療法
運動療法は、首や肩の動きを回復し、再発を防ぐための訓練です。5段階にわけた介入を私は主に留意してセラピストと治療計画を立てていきます。詳しくは前述した内容をご確認ください。
マッサージ
マッサージは、理学療法士が手を使って筋肉や関節をやさしく動かし、緊張をほぐす治療です。
患者さんは座位または仰臥位で受け、首・肩・背中の浅層筋から深層筋までを軽く圧迫・伸展します。
血流を促進して老廃物を流し、筋肉の柔軟性を高めることで、痛みやこり、可動域制限を改善します。
特に慢性期では、アライメント修正(姿勢バランスを整える)や深層筋の再賦活も目的に含まれます。
一方、急性期の強い炎症期には避けることが推奨されています。
むちうちのリハビリはいつから始める?
むちうちの場合のリハビリは、徒手療法としては、触れると痛いような急性期を超えたところから開始がいいと思います。受傷1週間以降先で患者さんの状況をみて介入します。
一方で腫れに対するアイシングや、電気治療などの消炎鎮痛を目的とした物理療法は受傷初期から介入します。
むちうちのリハビリのための通院期間と頻度
リハビリの通院期間、頻度についてですが、私見として、通院期間については過去の治療経験も交えて決めることがあります。障害程度が違う事による影響があるからです。
追突を受けた交通事故では、事故状況により推定のダメージは違います(相手はトラックなのか乗用車なのか、自車は普通車なのか軽自動車なのか、速度はどれくらいかなど)。
頻度については最低週2回以上が好ましいと考えています。
むちうちリハビリ中の日常生活での注意点
リハビリは前述したように、各時期によってやるべきリハビリ目的が異なります。
概ね患者さんが病態を理解することは大事です。触ると痛い急性期に、自宅のマッサージ機や強く行うような方がやっている整体などで痛みを伴う行為をしてしまったり、熱い風呂や飲酒をすると一気に痛みが悪化することがあります。
逆に慢性期になってセラピストに動かすように促されても、痛いから嫌だと自分に対して過剰に過保護でいくと、治りは著しく遅くなります。
注意点という注意点はないのですが、「痛みが多少あっても少しやってみる・セラピストとやり切る・医師のチェックを繰り返し受けていく」を意識される事が重要です。
まとめ
むちうち(外傷性頚部症候群)と聞けば、「交通事故」を連想されるかと思います。
高速道路近くの救急病院や大学病院でキャリアを積んできたので、軽微な交通事故からおぞましい事故まで沢山の方々の治療に携わらせて頂きました。
多くの方は、楽しい行楽予定や仕事のスケジュールが一瞬の事故で大きく変更されて、大変な思いをした被害者の方々でした。
初期治療の後にきちんと見続けないとさらに事故後も頸部に痛みが長く残る状態となり患者さんが苦しむことは多く、適切なタイミングに適切な医療を行うことの重要性を感じています。
さらに交通事故によってひきおこされるむちうちの場合には、相手がいる場合が多く憎悪のコントロールも痛みに影響してしまいます。
すべての痛みがなくなるわけではない方もいますが、現状の辛さを軽減・解決できる手段を提示していきますので、是非沼口までご相談ください。
監修
整形外科専門医Dr.沼口大輔
| 2006年 | 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修) |
|---|---|
| 2008年~ | 東京女子医科大病院整形外科 入局 千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む |
| 2013年 | 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得 |
| 2016年 | 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得 |
| 2016年~ | 東名厚木病院 医長 脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる |
| 2019年 | 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得 |
| 2024年~ | 千葉県内 救急病院に入職 |
| 2025年 | 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得 |
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Spine Surgery and Related Research 3巻 2号
発行元 Spine Surgery and Related Research
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