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外傷性頸部症候群(むちうち)は、画像上の問題といった他覚所見に乏しく、自覚的な症状が中心となる疾患です。後頸部痛を主訴とし、頭痛やめまい、吐き気など多彩な症状を伴うことがあります。
「痛みが残るといけない」と誰もが不安になる領域であり、逆に誤解も起こりやすいです。症状について理解してもらい少しでも理解が深まればと思います。
交通事故によるむちうちの症状とは
むちうちの症状は、頸部痛、頭痛、めまい、吐き気など多彩なバリエーションがあります。
一般的に知られている自律神経の不調を感じる状態になる患者様も一部います。それぞれ説明していきます。
首や肩などの痛み・こり
自覚症状の頻度として、頸部痛は94%と最多であり、2番目に多い肩こり63%と同様にこの二つの症状は代表的な症状となっています。
むちうちの頸部痛の原因は、受傷したときに発生する椎間関節という首の上下の関節が衝突することでの痛みと考えられています。関節がぶつかったのちに、“滑膜炎”という関節炎を起こすことが原因と言われています。
一方で、40%もの患者が、時間を経てから(多くは72時間以内に)頸部痛を自覚してくる別の原因もあります。
遅れて痛くなる理由は、頸部の“持続性筋緊張”によるもので、そのメカニズムには、筋収縮が影響して血行の循環不全を起こしてしまうと疼痛物質の蓄積が起こり、更なる頸部痛を遅れて自覚すると言われています。
その結果、筋肉の硬さも自覚してくるので首こり~肩こりとして症状を感じます。
参考文献:齊藤 文則.いわゆる「むちうち」の臨床-整形外科医の視点から:診察から治療まで-.ペインクリニック.2011;32(8):1147-1155
手や腕のしびれ・麻痺
事故の直後に腕や手のしびれを感じる方は少なくありません。
首や肩の筋肉が強く引き伸ばされたり、衝撃で神経の周囲に炎症が起こったりするためです。
また、ハンドルやドア・ひじ掛けなどに腕をぶつけて、腕そのものを痛めていることもあります。
こうしたしびれは多くの場合、一時的な炎症反応や筋肉の緊張によるもので、時間とともに軽くなっていくことが多いです。受傷直後はまず痛みを落ち着かせることが大切で、焦らずに治療を進めていきます。
診察では、「痛いから筋力を出力できないのか、本格的に出力ができないのか(運動麻痺なのか)」を丁寧に確認します。これは整形外科医の中でも脊椎外科医であれば分ける作業は鍛錬されています。
単に痛みで共鳴するようにしびれていたり、運動麻痺がないことが分かれば、まずは痛みや筋緊張を和らげる治療を行います。経験的にも、痛みが軽くなるにつれてしびれも自然に引いていくケースが多く見られます。
ただし、時間経過とともに以下の状態に進行する場合にはMRIといった精密検査を行います。
- 手足の力が入らない
- しびれが強くなる、範囲が広がっていく
頭痛
頭痛はむちうちの自覚症状の中で47%と3番目に多い症状です。経験則では、頸部の痛みが上がっていき頭痛になる例と、最初から頭痛がある場合があります。
前者の場合、筋の持続的筋緊張による症状の影響が考えられます。悪化すると筋緊張により吐き気、めまいに進行します。
参考文献:齊藤 文則.いわゆる「むちうち」の臨床-整形外科医の視点から:診察から治療まで-.ペインクリニック.2011;32(8):1147-1155
めまい
めまいの発生は、8%と報告され5番目に多い症状となります。吐き気とともに自律神経系の異常となって症状が表面化します。
原因には諸説あり、詳細な発現プロセスは断定できませんが、頸部交感神経の過緊張、椎骨動脈の循環障害、前庭神経の障害が関与しているとも言われています。
参考文献:齊藤 文則.いわゆる「むちうち」の臨床-整形外科医の視点から:診察から治療まで-.ペインクリニック.2011;32(8):1147-1155
吐き気
吐き気の発生は19%と4番目に多い症状となります。これもめまいの発生同様に自律神経系の異常となっていると言われています。
原因には諸説あり、詳細な発現プロセスは断定できませんが、頸部交感神経の過緊張、椎骨動脈の循環障害、前庭神経の障害が関与しているとも言われています。
参考文献:齊藤 文則.いわゆる「むちうち」の臨床-整形外科医の視点から:診察から治療まで-.ペインクリニック.2011;32(8):1147-1155
疲労感
むちうち後に、倦怠感を感じる方は多いです。頚部を受傷すると、前述した自律神経失調のような症状として「ぐったり」、「疲労感」がぬけない感覚が長く続く事があります。
ただし、これは個人差があるのと、慢性期の場合には交通外傷だけがその理由ともいえないので、参考所見として聴取や記録することが多いです。
耳鳴り
自律神経系の異常が関与していると言われています。原因には諸説あり、詳細な発現プロセスは断定できませんが、前庭神経の障害が関与しているとも言われています。
強い耳鳴りですと仕事や家事に集中することができず、睡眠の妨げにも発展する事があります。
発熱
むちうちだから全身が発熱するということはないです。
睡眠障害
睡眠障害は、重度なむちうちで自律神経症状や心理面の悪化を伴うような場合に併発することがあります。患者さん個人個人の理由は異なりましたが、総じて交通外傷を思い出したりすることでの抑うつ傾向や、今後の生活についての不安障害が影響すると推測しています。
交通事故でむちうちの症状が出るまでに時間がかかる理由
むちうちの症状で“滑膜炎による頸部痛”については事故当初から出てくるのですが、遅れて出現する“持続性筋緊張による頸部痛”は72時間までに出現し始めるのが報告としてもありました。
これには直接外力以外に、徐々に血流や筋の硬さが影響するため時間がかかります。
むちうちの症状があるときにやってはいけないこと
むちうちの症状があるというのは、頸部痛がある状態ですので、「飲酒をする」「熱い風呂に入る」といったことは血流を一気に増やしてしまい、過度に急速な血流影響は、障害部位の痛みを増やしてしまいますので控えるべきです。
また、長時間の下向き作業も頸部痛が悪化しやすいので、仕事ができるとしても頸椎カラーで補助したり、PCモニターの高さをあげて首の負担軽減をするといった工夫が必要です。
整形外科で行うむちうちの検査・治療方法
検査については、
- 頸椎レントゲン
- 頸椎MRI(必要時)
を行います。最低限レントゲンと診察所見があれば、事故の書類には十分な内容になります。
治療については、
- 消炎鎮痛剤、筋弛緩剤
- シップ
- リハビリ(物理療法、運動療法)
- トリガーポイント注射
などを行います。
整形外科と整骨院の違い
整形外科は医療機関であり、健康保険が適用される範囲が広く、病気やケガの診断・治療(骨折、変形性関節症、リウマチなど)が可能です。一方、整骨院(接骨院)は医療機関ではなく、医療類似行為を行う施設です。
保険適用は骨折・不全骨折・脱臼・捻挫・打撲・挫傷に限られ、原則として医師の同意が必要です。
整骨院は、検査、注射、薬は処方できません。マッサージや電気治療が主な施術で、ケガや筋肉の痛みを治療してくれます。整形外科では、検査、治療を行います。
検査はレントゲン、CT、MRIなどがあります。治療は薬処方、注射、リハビリ、手術などです。
| 整形外科 | 整骨院(接骨院) |
|---|---|
|
|
むちうち症状の医師への伝え方
むちうちの症状を医師に伝える方法についてですが、痛みや状況を素直に、端的に伝えるといいです。私達整形外科医たちは交通事故に年中関わっていますので、伝え方を妙に歪曲して表現する方は、「この人何か他意があるかもしれないな」とすぐに見抜きます。
痛みが続く人にはそれなりの理由があり、身体所見の経時的変化やカルテの発言や動ける具合の整合性についてもきちんと合致する例ばかりです。
医師が症状についての問診をしますので、流れに沿って素直に答えていただく形がいいと思います。
交通事故によるむちうちの症状のよくある質問
交通事故後にむちうちの症状が出たら、何日以内に受診すべきですか?
なるべく早くに整形外科へ受診しましょう。早期に治療開始するほうが治りやすく、診療記録を定期的に残していくことも交通事故の案件では法律が絡むことが多く、凄く大事な事です。
むちうちの症状は、日によって良くなったり悪くなったりしますか?
むちうち(外傷性頚部症候群)の痛みは、日によって強い日や弱い日があります。これは「気分の問題」ではなく、医学的に確認された体の反応です。
事故後、首や肩の筋肉や神経は敏感な状態となり、不安や緊張、睡眠不足、気圧の変化などが加わると、交感神経が働いて筋肉がこわばり、血流が悪くなり痛みを感じやすくなります。
医学誌 Pain では、「痛みを恐れて体を動かさない日ほど翌日の痛みが強い」*1と報告されており、また「不安が高い日ほど筋緊張と痛みが強くなる」*2と報告されています。
日による痛みの変化は、体が神経の感受性を調整している“自然な反応”です。
*1Vangronsveld K. Pain, 2008; 138(2): 365–374.
*2Woby S. Pain, 2007; 129(1–2): 233–242.
むちうちの症状はどのくらい続きますか?
むちうちの症状は概ね、受傷から3か月で多くの患者さんは改善する例が多いです。しかし、事故状況が大きい場合や、個人差がありますので6か月程度まで伸びて治療になることがあります。
交通事故の保険での対応が終わった後に体調により少し出てくる症状がある場合には、健康保険で対応となります。
まとめ
むちうち(外傷性頚部症候群)と聞けば、「交通事故」を連想されるかと思います。高速道路近くの救急病院や大学病院でキャリアを積んできたので、軽微な交通事故からおぞましい事故まで沢山の方々の治療や人生に携わらせて頂きました。
多くの方は、楽しい行楽予定や仕事のスケジュールが一瞬の事故で大きく変更されて、大変な思いをした被害者の方々でした。時には重症で人生が真っ暗になってしまった方も。
初期治療の後にきちんと見続けないとさらに事故後も頸部に痛みが長く残る状態となり患者さんが苦しむことは多く、適切なタイミングに適切な医療を行うことの重要性を感じています。
さらに交通事故によるむちうちの場合には、加害者がいる場合が多く心のコントロール(憎悪のコントロール:相手や現状を少しでも許せるか)も痛みに影響してしまいます。
相手と争えば弁護士さんと面談や、裁判の資料にも頻繁に関わってきましたので経験から話せる事は沢山あると思います。
すべての痛みがなくなるわけではない方もいますが、現状の辛さを共感・軽減・解決できる手段を提示していきたいと考えています。是非沼口までご相談ください。
監修
整形外科専門医Dr.沼口大輔
| 2006年 | 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修) |
|---|---|
| 2008年~ | 東京女子医科大病院整形外科 入局 千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む |
| 2013年 | 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得 |
| 2016年 | 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得 |
| 2016年~ | 東名厚木病院 医長 脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる |
| 2019年 | 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得 |
| 2024年~ | 千葉県内 救急病院に入職 |
| 2025年 | 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得 |
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Spine Surgery and Related Research 3巻 2号
発行元 Spine Surgery and Related Research
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