目次
扁平足について述べていきます。2003年の報告にはなりますが、日本の60歳以上の高齢者では約26%で男女差はほぼありません*1。
次に、お子さんの扁平足については、2019年のデータを示します。
小学生の運動器検診では扁平足の割合は男子:11.2% 女子:9.5%*2であり、男子>女子の方が若干扁平足の割合は多い結果です。
*1Association of flatfoot with pain, fatigue and obesity in Japanese over sixties Nihon Koshu Eisei Zasshi. 2003 Oct;50(10):988-98.
*2運動器検診結果からみた小学生の運動器の特徴、日本臨床スポーツ医学会誌 27巻1号
このページでは扁平足の大まかな世代別での原因や、放置したときの影響、対応について確認していきましょう。
扁平足の原因
扁平足は、足のアーチ構造が破綻し、土踏まずが消失してしまいflat footとなったものです。大人や子供でも起こりうるもので原因が異なります。先天的な要因と、後天的な要因に大別されます。
先天的な扁平足の原因
先天的な要因(生まれつきの足部変形)で扁平足であるのは、先天性垂直距骨という病気や、Down症候群、関節弛緩が原因の病気などです。
先天性垂直距骨では舟底変形という足の変形になります。発生は1万人に1人であり、先天性の足部変形の4%以下と言われています。遺伝子の異常や胎児期の発育障害が原因に挙げられており、遺伝的な要素と言えます。なお、幼少期の扁平足については、すべてが先天的ではありません。
足の筋肉や靭帯等の発達不足
一般社団法人足育研究会の報告では、通園方法の違いが未就学児の足の発達、土踏まずの形成に影響する可能性が示されています。徒歩通園の子どもは「よじ登る」「平均台のように歩く」といった活動が日常的に多く、運動能力だけでなく土踏まず形成が進んでいました。一例として、竹馬の比較試験では徒歩通園の子では成功し、できなかったのは車通園の子どもでした。*
徒歩の通園は運動発達や、会話を通じて親子の絆にも良い効果をもたらします。ただし、この結果は長年にわたる調査が良かったとはいえ市内2か所・2園の調査に基づくもので、すべての園児に当てはまる結果ではないのを注意ください。
*足育学-外来で見るフットケア・フットヘルスウェア-、全日本病院出版会、P242-245
後天的な扁平足の原因
後天的な扁平足では、体重や加齢によって影響もあります。
体重増加
体重増加は扁平足を悪化させる可能性があるので減量を勧めています。バランスがわるくなっている状態で体重が加わるとさらに悪化するおそれがあるので注意を促しています。
特に踵の骨が、扁平足がひどくて内側に倒れてくる(外反扁平足)場合や、扁平足でもつま先立ちでアーチが改善されない場合には、体重が増えていくと足の内側に体重が過剰に乗っていき痛みが悪化しやすいのでインソールによるアーチサポートとともに減量も伝えています。
加齢
加齢変化は、直接扁平足になるわけではないですが、後脛骨筋という筋肉が年齢変化や変性によって炎症を起こしていくことで断裂を起こすなどを契機に扁平足になっていくため、加齢も影響があります。
年代別の扁平足の原因
Hohmannの分類といって、扁平足を年代別に分けると小児扁平足、思春期扁平足、成人期扁平足に分かれます。
ではこれからそれぞれを確認しましょう。
小学生の扁平足(小児期扁平足)
小児期の扁平足では、基礎疾患があるもの(先天性垂直距骨や、運動発達遅延、ダウン症候群、骨形成不全症、マルファン症候群をはじめとする関節弛緩を起こす病気)ではない場合には、 自然な「アーチ形成」ができなかった状況となります。アーチ形成の判断については、3歳になってもアーチ形成ができない子はとくに治療対象です。
対応としては、足底板(インソール)や装具療法を行ないます。積極的に運動をさせて、著しい扁平足でもよほどではない限り10歳までは保存療法を優先させていきます。
成長していくので、足底板は6か月から1年での作り直しを行い、成長線が閉鎖する14-15歳まで使用する事もあります。
参考:図説 足の臨床 第四版、MEDICAL VIEW、P115-129
写真:0歳では扁平足であり、徐々に年齢とともに土踏まずが形成されます。
中学生・高校生の扁平足(思春期扁平足)
写真:内くるぶし下の外脛骨が突出している
学童期以降に、体重増加、スポーツの影響で発症する扁平足です。足の内側の痛みがあり、外脛骨という骨の影響で炎症を強く起こしてしまう炎症性扁平足とも言われます。
写真のように突出した骨を確認でき、さらにひどくなると内側だけでなく足の外側にも痛くなる扁平足(腓骨筋痙直型扁平足)に進行することもあります。
治療は、スポーツの環境調整、足底板(インソール)、消炎鎮痛薬の処方になります。
外側も痛くなる痙直型扁平足まで進行する場合にはギプス固定を一時することも検討します。外脛骨障害には手術治療もあり、ひどい場合にはドリリングや切除を行います。
大人の扁平足(成人期扁平足)
思春期から続く扁平足だけではなく、肥満や加齢による筋力低下、腱・靭帯の脆弱性によって成人期から病状悪化例があります。後脛骨筋やばね靭帯と呼ばれるものの機能不全によって扁平足となります。
悪化し続けると、変形性足関節症という変化もみられるようになります。
後脛骨筋機能不全とは
写真:後脛骨筋に沿って腫脹
内くるぶしの後ろを走行し足底に向かう筋肉で、扁平足にならないために重要な内側縦アーチに関与するものです。走行形態から腱の血流は弱く断裂することがあります。扁平足に影響が強い障害ですが、肥満や加齢での影響もあり成人期扁平足の原因になります。
写真のような足くるぶしから踵に向かう部分の腫れを筋肉走行上に起こすこと、歩行や立位によって足の内側の痛みを訴えます。
治療として軽度なものは足底板によるアーチサポートや減量、後脛骨筋腱の負担を下げる処置や指導をします。アキレス腱のストレッチも行いますが、後脛骨筋の断裂などで効果がない場合には、手術も検討します。
扁平足を放置するとどうなる?
扁平足を放置すると、幼少期や思春期では歩行時の足の痛みや疲れやすさ、スポーツのパフォーマンス低下を招く恐れがあります。炎症が強い場合は痛みでスポーツ継続が困難になる事もあります。
成人期では痛みで歩きづらくなったり、履ける靴が限られ、日常生活に支障をきたします。また、高度に悪化した後の手術は大変な複雑なものになるので、悪化する前に整形外科へまずは相談しましょう。
扁平足は治すことができる?
扁平足に対して痛みが少ない状態に近づく治療はできますが、外来レベルの治療で足の変形が治って扁平足から土踏まずが再度形成されてきたというのはなかなか難しいです。
その理由として、体重がかかる場所であることから治っていくのが難しい場所であることと、鍛えにくいことも原因ではないかと考えられます。
しかし、荷重バランスが悪いことで痛みの連鎖になってしまうのを軽減させるのに、インソールやアキレス腱のストレッチ、外脛骨への注射など、様々な方法で痛みを軽減し扁平足とうまく付き合えると患者様が自覚できる体験は患者様に届ける事はできると考えています。
整形外科による扁平足の治療方法
扁平足では、徒手的な診察と、レントゲンでの評価を連動して行います。
成人の扁平足では、後脛骨筋が断裂していることも評価が大事になるので、足のMRI検査も行って評価いたします。治療については、手術については長くなってしまうので今回における説明は省きました。
子どもの扁平足
親御さんが運動療法に取り組む意欲が高く、アーチ形成のため足裏の筋力強化が勧められます。
具体的には、砂浜や芝生など柔らかく凸凹した場所でのはだし遊びや、室内で半球型マッサージボールを使った遊びが有効です。
乳幼児期は足裏の感覚受容器「メカノレプター」が重要で、足裏の圧センサーを通じて脳に刺激が伝わり、平衡感覚と連動して適切な筋肉の使い方が身につきます。それゆえ、はだし遊びや多様なバランス遊び、よく歩くことが大切です。
ただし、硬い場所での長時間のはだしは痛みが出るので避けましょう。
成人の扁平足
後脛骨筋を鍛えることは良い方向にすすむと病態からは考えられます。
しかし、炎症が強い、MRIで菲薄化しているなどではできないこともあり、患者さんの状態に応じて提案していきます。アキレス腱が硬くなっていくと扁平足が悪化する原因ともなり得るので、アキレス腱のストレッチは必ず提案していきます。
足底挿板(インソール)は扁平足の保存加療に選択されます。
インソールはアーチサポートといって、失ったアーチによる荷重バランスの悪さを改善したり、痛みのかかる部位に保護剤を入れる事で痛みも軽減できる手段です。
インソールには、保険適応のインソールと市販のインソールがあります。
- 保険のインソール
足形を取り、医師に加えて技師装具さんがチェックしていくので、細かな微調整ができるのが利点です。
しかし保険適応で市販より高額となってしまいます。 - 市販のインソール
「とりあえず安価で試して効果を実感する」が可能です。
市販のものもかなりコンセプトや価格帯、素材が異なりますので1つを試してダメだから「保険のインソールも絶対効かない」と考えるのは時期尚早です。
1,000円~3,000円程度が多くの市販であります。
まとめ
「痛みやしびれがもっと楽になれば、笑顔を取り戻せるのに」
——そんな患者さんの悔しさを変えたくて診療を続けてきました。
整形外科専門医として神経(脊髄)の治療に精通し、高速道路近くの救急病院や大学病院で18年間診療を行ってきました。
歩行が長く、きちんとできる事は満足した生活に関わると考え、足の治療を学びなおそうと足専門クリニックでも診療を続けてきました。海外に比べ日本では、成人や子供の足障害の啓蒙活動が足りない事を痛感し、インソールや運動療法に興味を持って取り組んでいます。
装具技師とタイアップして理解、精度を高めたインソール治療についてもぜひ一度ご相談ください。
監修
整形外科専門医Dr.沼口大輔
| 2006年 | 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修) |
|---|---|
| 2008年~ | 東京女子医科大病院整形外科 入局 千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む |
| 2013年 | 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得 |
| 2016年 | 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得 |
| 2016年~ | 東名厚木病院 医長 脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる |
| 2019年 | 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得 |
| 2024年~ | 千葉県内 救急病院に入職 |
| 2025年 | 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得 |
原著論文1
Incidence of Remote Cerebellar Hemorrhage in Patients with a Dural Tear during Spinal Surgery: A Retrospective Observational Analysis. 2019/04
症例報告
C5/6 hyperflexion sprainの1例 2018/06
原著論文2
環軸関節亜脱臼の診断におけるトモシンセシス撮影の有効性 2017/08
原著論文3
人工股関節全置換術を要した遅発性脊椎骨端異形成症の1例 2012
学会発表
- 強直性脊椎骨増殖症に発生した頚椎骨折に対して、前方固定術を施行した1例 (口頭発表,一般)
- MRI矢状断像における椎間孔部での狭窄の分類 (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 脊椎手術において2本ドレンを留置することは術後の血腫による麻痺を防ぐことができるか (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 椎体骨折偽関節症例に対するBalloon kyphoplasty施行後の隣接椎体骨折危険因子に関する検討 (口頭発表,一般) 2013/04/25
- 肩甲上神経絞扼を認めた肩甲切痕部ガングリオンの1例 (口頭発表,一般) 2012/06/23
- 外反母趾術後に出現した足底部痛の1例 (口頭発表,一般) 2010/11/16

