目次
頸椎椎間板ヘルニアとは、頸椎の椎体と椎体の間にある椎間板が脱出して、脊髄(神経)を圧迫することで症状を出すものです。
強い一側性の肩甲骨の痛みや上肢のしびれを出すことが多いですが、大きなヘルニアでは歩行困難になったり、尿の出が悪くなったりすることがあります。
頸椎椎間板ヘルニアとは
イラスト:山田修太郎.ここまで知っておけば超安心!頸椎術後の症状とケア:代表的な疾患 頸椎椎間板ヘルニア(解説).整形外科看護.2024;29(5):428-430.
頸椎椎間板ヘルニアとは、首の骨(頸椎)のクッションである椎間板が変性・破綻し、内部の組織(髄核)が繊維輪という部分を飛び出して脊髄や神経根を圧迫する病態です。
①-③の障害のタイプがあり、①では脊髄が圧迫され上肢や下肢にわたる脊髄の症状(脊髄症)を起こします。②,③については神経根が障害され痛みが強い症状(神経根症)を引き起こします。
40-60歳台の男性に多く発症します。
頸椎椎間板ヘルニアの症状【チェックリスト】
頸椎椎間板ヘルニアの症状は、圧迫する神経のエリアにより、症状の種類が違います。またその程度も差があります。
脊髄症状
脊髄症状とは、①の正中ヘルニアの形で大きく出た場合に脊髄自体が圧迫されるものです。
脊髄が圧迫されておきる症状は、軽度なものは両側性の肩甲骨から上肢へのしびれや手のぎこちなさ、例えば「Yシャツのボタンを指先ではめる」や、「書字がうまくかけない」、「箸で小さなものがつまめない」といった症状です。
これを巧緻運動(こうちうんどう)低下といいます。
腱反射といって、膝が抜けるような症状がでることや、排尿、排便の障害がでることもあります。
神経根症状
神経根症状は、②傍正中や③椎間孔といった神経根を直接圧迫して障害する場合にみられます。
神経根は圧迫されると障害側の肩甲骨内側の痛みや、上肢の強い痛み、痺れが出現します。
神経根障害が悪化すると該当する筋力の低下も伴う事があります。
重度の症状
重度の障害となると、混合障害になっている例も多くみられます。つまり、脊髄症だけがおきるだけでなく、神経根症も同時に症状として出ている状態です。
脊髄症では、手がしびれて使いづらく、歩行はうまくできず痙性歩行となります。転倒を繰り返し、次第に下肢の筋力がうまく発揮するのも困難になる例や、打ちどころが悪いと脊髄損傷になることもあります。
また、神経根症で首を後ろに反らせると強い肩甲骨の痛みや上肢の痛みをともなっている状況がとなることがあります。
痙性歩行とは
神経障害により下肢の反射といって、脚の筋肉が突っ張りうまく歩けなくなる歩行状態です。
具体的には、
- 膝が十分に曲がらない(伸びたまま)
- 足が地面に引っかかる(つま先が上がりにくい)
頸椎椎間板ヘルニアを放置するとどうなる?
放置した場合に推移は一概に必ず進行するとは言えません。
症状悪化の推移を辿る場合には、神経根障害の場合では肩甲骨内側の痛みや上肢の痛みしびれの悪化をします。また脊髄症の場合では歩行障害や転倒傾向となってきます。
しかし症状がそのままで維持する場合もあり、その場合にはゆっくりと改善傾向となることもあります。
しかし転倒傾向が顕著となると、余裕のない神経は振動に弱く神経症状は転倒のダメージにより悪化していきやすいです。
頸椎椎間板ヘルニアの検査と診断
頸椎椎間板ヘルニアの診断は、レントゲン、MRI、CTを用います。
レントゲンでは不安定性といって、ヘルニアが出ている部位が不安定な関節の動きをしているかどうかなどを判断します。MRIでは神経の圧迫が直接確認できます。
しかし、MRIでのヘルニアとみえるものが骨のとげ(骨棘)の場合もあり、CTでは明確に区別ができます。
手術をする時などはCTも治療方針決定に重要です。外来レベルではヘルニアであっても骨棘であっても圧迫状況が分かればひとまずは治療に移行しやすいので、CTは必須とは言えません。
整形外科で行う頸椎椎間板ヘルニアの治療方法
頸椎椎間板ヘルニアの治療は保存療法(手術でないもの)と手術治療があります。
改善する可能性が高く最初から手術検討することは少ないです。
保存療法
保存加療とは、内服を中心とした薬物治療と、リハビリ、注射によるブロック療法などがあります。
薬物療法
① 軽症の神経根症に対する薬剤治療
神経根症は自然に軽快することも多く、基本的には保存療法が主体となります。薬物治療としては、まず消炎鎮痛薬(NSAIDs:ロキソニンなど)を用いて痛みのコントロールを行います。
神経障害性疼痛が関与している場合には、プレガバリン(リリカ)やミロガバリン(タリージェ)を併用することが有効です。あわせて、頸椎カラーによる安静保持や、牽引療法・温熱療法を取り入れることで、症状の改善を図ります。
多くの症例では、これらの治療で経過観察が可能です。
② 軽症の脊髄症に対する薬剤治療
軽症の脊髄症では、まず保存療法として薬物治療を行います。消炎鎮痛薬に加え、しびれや異常感覚に対してプレガバリンやミロガバリンを使用します。
頸椎カラーによる安静も有効であり、症状の進行を抑えながら慎重に経過をみていきます。
椎間板ヘルニアが原因の場合には、自然に縮小することで症状が改善することもあるため、適切なフォローが重要です。
リハビリテーション
頸椎ヘルニアのリハビリでは、頭重を減らすことも重要です。牽引といって頭重を機会に預けて首の辛さを解除したり、リハビリで手を使ったマッサージやストレッチで痛みを減らしていきます。
理学療法士の方がゆっくりと進めてくれるリハビリが最適です。
装具療法
とくに神経根症ではとてつもなく 痛みが強い場合があり、頭重を頸椎が全て受けるだけで調子が悪くなる方もいます。
そのような場合に頸椎のカラー(交通事故で使うような首の装具)を利用して頭重をカラーに少し肩代わりしてもらい、頸椎の動きを抑えて荷重を減らすことで痛みやしびれを減らすことができます。
ブロック注射
ブロック注射は、痛みしびれが内服薬やリハビリでもコントロールが厳しいときに検討します。
痛みが強い場合には神経根ブロックや星状神経節ブロックが手段としてありますが、やらないと治らないわけではありません。症状が強い方に追加で行う場合があるという治療です。
ブロックはどうにもならない時に頼りになる治療です。各種ブロックは他にまとめがあるので気になる方はそちらを見てください。
手術が必要となる目安
手術を検討する目安についてお伝えします。
神経根症で手術を考える場合
神経根症では、基本的に保存療法で対応しますが、一定の条件では手術を検討します。具体的には、保存療法を十分に行っても改善が乏しい場合や、症状の再燃を繰り返す場合が該当します。
また、強い痛みが持続し、日常生活に大きな支障をきたしている場合も手術の適応となります。
さらに、肩関節の挙上障害や手内在筋の筋力低下などの神経脱落症状が認められる場合には、早期に手術を検討することが重要です。
脊髄症で手術を考える場合
脊髄症では、進行すると不可逆的な障害を残すと移動すら困難になる可能性がある点があり注意を要します。
保存療法に反応しない場合や、手指の巧緻運動障害、歩行障害(痙性歩行など)といった明らかな運動障害を認める場合には、手術適応となります。
特にこれらの症状が進行している場合には、脊髄の不可逆的な変化を最小限にとどめるため、適切なタイミングで早期に手術を行うことが重要です。
手術療法
手術療法は一般的には頸椎の前方からの手術(頸の皺に沿って左側の頸部を切開して椎体、ヘルニアに到達する方法)を選択します。
椎間板がなくなったあとに、全体を固めて安定性を得る前方固定術と、人工椎間板で可動性を残す治療に分かれます。
手術の種類
頸椎前方除圧固定術(ACDF)
頸椎前方というのは首の左前を切って頸椎の前面に到達して、椎間板を切除して深部まで処理して神経の部位のヘルニアを取り除ける手術です。
椎間板がなくなってしまうので、代わりに移植骨入りに金属のケージをいれて行うことが一般的です。
また、他椎間に渡る場合には骨を1個分削り、移植骨と金属プレートで固定する方法もあります。
イラストは単椎間でのヘルニアに対する、ケージの一例です。
ケージ画像参考:Styker Anchor-C
頸椎人工椎間板置換術
頸椎人工椎間板置換術は、ケージに代わって人工椎間板というものをいれて可動性を残す手術です。
やり方については頸椎前方固定手術に準じて行います。
椎間孔拡大術
この方法は開窓術(かいそうじゅつ)とも言われます。これは頸椎を後ろから小切開して神経の枝である神経根がどこを通っているかを確認し、その部分の骨の屋根を削って神経根周囲の圧迫因子を頸椎の背面から処理する方法です。
内視鏡で行う施設も増えております。
この手術方法はヘルニアを神経根の脇からヘルニア摘出できることもありますが、小さいヘルニアの場合は神経根を圧迫しても神経を後ろに逃がすだけでも症状が改善することがあります。
左:手術前の3DCT 青枠が病変部
右:手術後の3DCT 青枠を切除し神経除圧したところ(CTには神経はうつりませんが存在します)
画像参考:水野正喜.脊椎脊髄疾患の最新ガイドライン―頸椎症性神経根症,脊髄神経膠腫,神経症状評価のスコアリング―.脳神経外科速報.2016;26(7):711-718.
術後の経過と予後
頸椎手術を行った後には、移植骨が安定化する2-3か月まで頸椎の固定用カラーを使用します。
術後経過としては頸椎を過剰に動かすような首をふるような動きは避けていきます。
頸椎椎間板ヘルニアが再発する可能性はある?
前方固定にてヘルニアは切除され、椎間板のあった部分はインプラントに置換されるため、ヘルニア再発というのはありません。
しかし一番行われる成績が安定している頸椎前方固定手術でも、術後に隣の椎間に問題がおきてきて再手術になる例がありその確率は9-17%*1、*2です。
これは、ヘルニアがあったところが前方固定により安定化し硬くなり、他の椎体との動きの歪が年齢を重ねていくと発生しやすくなるといった理解でいいと思います。
*1脇岡徹ら.頸椎椎間板ヘルニアに対する前方除圧固定術の中・長期治療成績.Journal of Spine Research.2010;6:1175-1178.
*2Hilibrand AS, et al. Radiculopathy and myelopathy at segments adjacent to the site of a previous anterior cervical arthrodesis. J Bone Joint Surg Am. 1999;81:519-528.
頸椎椎間板ヘルニアでやってはいけないこと
椎間板ヘルニアではこれをやったら確実に悪化するとわかっているものはありませんが、頸椎を後屈強制すると(顎をあげる動き)神経障害が悪化することが多いので注意を要します。
それゆえ、激しくお互いがぶつかるスポーツでは頸椎が持ち上がる動きをしてしまうので控えるか辞める事も大事な選択だと思います。例として、ラグビーやアメフト、ボクシング、格闘技などが上がりますが、野球でもスポーツを諦めた名選手もいました。
阪神タイガースに所属していた赤星選手は2009年頸椎ヘルニアに罹患しており、ダイビングキャッチが持ち味でもありましたが、脊髄損傷リスクを考え現役を退く判断もされています。「今度やってしまったら(体のどこかの個所が)不随になる可能性もある。最悪、命にかかわる可能性もある」と医師に告げられました。慎重なプレーをすればいいのかもしれないが、「100%のプレーができないなら辞める」と判断されました。
日常生活でできる頸椎椎間板ヘルニアの予防策
ヘルニアとなる場合、椎間板変性が背景にあります。遺伝的要素もあるのでかならずこれをしない方がいいときまった事は申し上げにくいです。
しかし、椎間板変性に関与することがはっきりしているのは、喫煙です。
これは個人努力でリスクを下げれるので私は診療にて伝えるようにしています。
まとめ
皆さんがよく認知されている頸椎ヘルニアは、7割近くは保存加療で治っていきますが、あまりにも痛い人には急ぎで手術やブロックなどの処置が必要になっていきます。
私は脊椎外来をさせて頂いてきたので、このような沢山の患者様に対して内服やリハビリ治療、ブロック、前方や後方の手術(後方は手術方法が少し異なりますが)をしてきました。
困っている患者様の問題点や、選ぶ治療の限界点について説明が可能です。クリニック開業後は頸椎手術まではしなくなりますが、手術の際には手術が上手な先生に紹介も行います。
是非沼口までご相談ください。
監修
整形外科専門医Dr.沼口大輔
| 2006年 | 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修) |
|---|---|
| 2008年~ | 東京女子医科大学病院整形外科 入局 千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む |
| 2013年 | 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得 |
| 2016年 | 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得 |
| 2016年~ | 東名厚木病院 医長 脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる |
| 2019年 | 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得 |
| 2024年~ | 千葉県内 救急病院に入職 |
| 2025年 | 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得 |
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Spine Surgery and Related Research 3巻 2号
発行元 Spine Surgery and Related Research
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