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頚髄症(けいずいしょう)とは、首の骨の加齢変化などによって首の中を通る神経の束「脊髄」が圧迫され、手足のしびれや動かしにくさ、歩きにくさなどが起こる病気です。
初期は「年齢のせい」「疲れ」と見過ごされやすい一方、進行すると日常生活に大きな支障が出て、手術が必要になることもあります。このページでは、頚髄症の原因、症状、検査、治療、日常生活での注意点までを解説します。
頚髄症(頚椎症性脊髄症)とは
頚髄症とは、首の骨や椎間板、靱帯の変性によって脊柱管が狭くなり、脊髄が圧迫されて起こる病気です。正式には「頚椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)」と言います。
脊髄は手足の動きや感覚、排尿・排便などに関わる重要な神経の通り道であるため、圧迫が強くなると、しびれだけでなく手がうまくつかえない症状(巧緻運動障害)や突っ張る歩行、転びやすさなどが現れます。
神経と脊髄ってどう違うの?
異なります。神経とは、脳からの命令を体に伝えたり、痛みやしびれなどの感覚を脳へ伝えたりする“情報の通り道”です。全身に張り巡らされており、手足の動きや感覚に関わっています。
脊髄は、その神経の中心となる太い束で、首から背中の骨(背骨)の中を通っています。
脊髄は通る場所によって、首の部分を頚髄(けいずい)、胸の部分を胸髄(きょうずい)、腰ではみぞおち付近で脊髄は終わり、馬尾神経という脊髄ではない部分になります。
このように神経が枝分かれして手や足へ広がり、体を動かしたり感覚を伝えたりしています。
頚髄症の原因
頚髄症の主な原因は、加齢に伴う首の変性です。年齢とともに椎間板が傷み、骨の縁に骨棘ができたり、黄色靭帯といって脊髄の近くの靱帯が厚くなったりすると、脊髄の通り道が狭くなります。
また、もともと脊柱管が狭い方では、比較的軽い変化や衝撃(頭をぶつける、転倒する)でも症状が出やすくなります。
頚髄症になりやすい人は?
頚髄症は中高年に多く、50歳以上の男性に多いことが報告されています。MRIでは日本において40~80歳の健常成人のMRIでは約6割(59%)に頚髄圧迫が見られます。
無症候性といって、症状が出ない方も存在し、そのような方は平均約4年(3.7年)で8%の方は症状が出てくることがわかっています。*
また、日本を含む東アジアでは後縦靱帯骨化症(OPLL)など、脊柱管を狭くしやすい病態にも注意が必要です。
*土肥透ら. 脊椎疾患の疫学(解説). Orthopaedics. 2021;34(10):1-6.
頚髄症の主な症状
頚髄症では、腕から手のしびれや指先のつかいにくさ、細かな作業が苦手になる症状で始まっていきます。重症化していくと手足や歩行状況、排尿機能にも症状が出ることが特徴です。代表的な症状は次のとおりです。
腕から手指の痛み・しびれ
指先の感覚が鈍い、腕がしびれるなどの症状がみられます。
首や肩、肩甲骨まわりの痛み
肩甲骨内側に痛みを感じやすいです。 これは脊髄から分岐した神経根という部分にも圧迫があって神経根症状が関与しています。(詳しく知りたい方は以下のリンクへ)
手先の使いにくさ
「巧緻運動障害(こうちうんどうしょうがい)」といいます。10秒間でグーパーが素早くできなくなるかどうかをテストすることで疑っていきます。(正常は20回以上可能)
生活上の症状ではYシャツのボタンや、書字がうまくできない、箸で細かなものがつまめないといった手の不器用さの特徴があります。
手足の筋力低下、脱力感
歩行が不調になります。膝が抜ける、階段が怖いといった症状が出現してきます。これは、脊髄の症状で膝の膝蓋腱反射亢進といって軽微な刺激でも膝が勝手に伸びようとする反応が影響します。片脚で荷重して移動するときに、体重が乗っている脚が不安定となることで「膝が抜ける」といった脱力感を感じて時には転倒してしまいます。
頚髄症が進行するとどうなる?
頚髄症は、ゆっくり進むこともあれば、ある時期を境に目立って悪化することもあります。
進行すると、手の細かな動作障害が強くなり、歩行障害や転倒しやすさ、さらに排尿障害が出ることがあります。自然に完全に治ることは期待しにくく、特に脊髄症状が明らかな場合は放置で神経障害が固定するおそれがあります。
軽症でも進行していく場合では早めの対応が勧められます。
自然治癒する可能性はないとは言いませんが、「ある時期」というのが外傷(頭をぶつける、転倒して尻もちをつく)の場合には速度は違っても悪化していく形が多いです。
整形外科で行う頚髄症の検査・診断方法
頚髄症は問診、診察、画像検査を組み合わせて診断します。
- 問診・神経学的診察:
手の使いにくさ、歩行障害、反射の亢進、病的反射などを確認します。 - レントゲン検査:
骨の変形、配列、椎間板の狭まりなどを確認します。 - MRI検査:
脊髄や椎間板、靱帯の状態を詳しくみる検査で、神経の圧迫評価の中心になります。 - CT検査:
骨棘や骨化病変の評価に役立ちます。
診断は、症状だけでも画像だけでも不十分で、症状・神経所見・画像所見を総合して判断します。画像上の圧迫が強くても症状が軽い人もいれば、逆に日常生活で強い支障が出ている人も存在します。
整形外科で行う頚髄症の治療法
頚髄症の治療は、症状の強さ、進行の速さ、画像での圧迫の程度を踏まえて決めます。軽症で進行がはっきりしない場合は保存療法から始めます。一方で脊髄症状が明らかで、歩行障害や手の巧緻運動障害が強い場合は手術を検討します。
頚髄症は「薬だけで完全に治す」病気ではなく、神経障害の進行を止め、機能を守ることが治療の大きな目標です。治療は大きく保存療法と手術療法の2つに分かれます。
保存療法
保存療法とは、手術を行わずに、薬、装具、注射、理学療法などで症状の緩和や悪化予防を目指す方法です。しびれや痛みが軽く、歩行障害や手の不器用さが目立たない段階で選ばれることがあります。
ただし、保存療法で脊髄の圧迫自体がなくなるわけではないため、経過中に悪化がないか定期的に診察でみていく必要があります。
薬物療法
薬物療法では、痛みやしびれに対して消炎鎮痛薬、神経障害性疼痛に対する薬、筋緊張をやわらげる薬などを使います。目的は症状を軽くして日常生活を送りやすくすることであり、脊髄への圧迫そのものを治せる治療ではありません。
痛みが強い場合の補助として有用ですが、歩行障害や巧緻運動障害が進んでいる場合には、薬だけで様子を見るのは限界があります。
装具療法
装具療法では、頚椎カラーなどを用いて首の動きを一時的に抑え、痛みの軽減や過度な負担の回避を図ります。急性増悪時や首の動きで症状が悪化しやすい場合に使うことがありますが、漫然と続けるのは勧められません。
装具はあくまで補助的な手段で、症状や生活状況に応じて使用期間を調整します。
注射療法
注射療法は、首・肩・腕の痛みが強い場合に、神経ブロック注射や星状神経節ブロックなどを用いて痛みを和らげることがあります。
特に神経根症状を伴うケースでは痛みの軽減に役立つことがありますが、頚髄症そのもの、つまり脊髄圧迫を根本的に治す治療ではありません。
理学療法(リハビリ)
理学療法(リハビリ)では、姿勢指導、首や肩甲帯、腕の筋力改善、歩行訓練、手の使い方の練習、日常生活動作の工夫などを行います。目的は、痛みの軽減、転倒予防、身体機能の維持、生活しやすさの向上です。
頚髄症のリハビリは「手術の代わり」というより、軽症例の機能維持や、手術前後の回復支援の意味が強いです。
リハビリ期間は保険の病名によって左右されますが、頚髄症では理学療法士や作業療法士といった人を介するリハビリについては最大が150日(約5か月)です。再延長については、担当の先生とよく話して進みましょう。
手術療法
手術療法は、症状の進行が早い場合、歩行障害や手の機能障害が明らかな場合、保存療法で十分な改善が得られない場合に検討されます。
目的は、脊髄への圧迫を取り除いて、神経障害の進行を止め、可能な範囲で機能回復を目指すことです。代表的な方法に椎弓形成術と前方除圧固定術があります。
椎弓形成術
椎弓形成術は、首の後の正をに縦に切開を入れます。脊髄を守る骨(椎弓)を削って、この骨を広げる作業を行い脊柱管を広げて脊髄の圧迫を解除します。
広げる方法には縦割といって真ん中を開ける方法と、片開き式といって左から上げていく方法があります。
持ち上げた椎弓には自分の骨や、人工骨、金属を差し込んで、広くなった椎弓を維持します。多椎間にわたる圧迫がある場合や、頚椎の前弯が保たれている場合に選ばれやすい方法です。
利点として可動性をある程度残せる利点があります。
一方で、術後の首の痛みが多少あることと、筋肉の支えが弱くなり頸椎が前方に傾く(後彎といいます)ことがあるため、側面でレントゲンを見たときのもともとのアライメントと呼ばれる首の骨の流れがどのような状況かを考えて適応を決めていきます。
■ 人工骨の場合
■ 金属の場合
前方除圧固定術
前方除圧固定術は、首の前方から横に切開をします。左の首が一般的で、首の皺に沿って切開します。椎間板や骨棘など脊髄を前から圧迫している原因を直接取り除き、椎間板をインプラントで置き換えたり、移植骨+プレートで固定する手術です。
圧迫の主がヘルニアや後縦靭帯骨化症といった神経からは前方の成分の圧迫要素である場合に適しており、後方が向いていない後弯変形を伴う方に適しています。
椎体切除を行う場合には前方の病変を直接除圧できる点が大きな利点ですが、金属固定を伴うため可動性は一部失われます。
どの術式が適しているかは、圧迫部位、レベル数、アライメント、全身状態を踏まえて判断されます。
■ プレートの場合のイメージ図
(実際には気管、食道、甲状腺、頸動脈などがありそれをのぞいたイラストを作成しています)
実際の皮膚切開は両側を開ける外科医と、正中から右は行わず左側のみ切開する外科医がいます。
他椎間を手術する場合(プレートと椎間板置換時)には横からみるとレントゲンはこのようになります。
日常生活における注意点
頚髄症では、神経は広がらないにしても神経の伝導を良くするお薬や、しびれのお薬があるので症状がひどい方は内服をしっかり行いましょう。また、頸椎を後ろに反ると神経障害が増すため、歯医者や美容室などでは首の位置を反りすぎないように病状を説明されるといいです。
定期的に医師にかかり、変化を見ながら必要時に理学療法士の指導のもとで、無理のない範囲の運動を続けることが勧められます。
まとめ
頚髄症は、加齢などによる首の変化で脊髄が圧迫され、手足のしびれ、手の使いにくさ、歩行障害などを起こす病気です。初期は肩こりや加齢現象と間違われやすい一方、進行すると日常生活に大きな影響が出ます。診断には整形外科での神経学的診察と画像検査、特にMRIが重要です。
軽症では保存療法を行うことがありますが、進行例や中等度以上では手術が重要な選択肢になります。「最近、字が書きにくい」「箸が使いづらい」「膝が抜けやすい、歩きにくい」と感じたら、早めに私や、整形外科を受診することが大切です。
早期に適切な評価と治療を受けることが、神経機能を守る近道です。私の場合では、詳細な神経所見をとって外来レベルで診ていられる患者様か、手術ができる病院を早急に紹介するかを判断いたします。
しかし、ご自身のお身体であり患者様に決定権がありますので、医師に相談したら即手術させられる、怖いということはないので心配せずにご相談ください。
監修
整形外科専門医Dr.沼口大輔
| 2006年 | 東邦大学医療センター大橋病院 入職(初期研修) |
|---|---|
| 2008年~ | 東京女子医科大学病院整形外科 入局 千葉こども病院、国立がん研究センター築地病院ほか関東近県の複数関連施設にて研鑽を積む |
| 2013年 | 日本整形外科学会認定 整形外科専門医 取得 |
| 2016年 | 日本整形外科学会認定 脊髄病医 取得 |
| 2016年~ | 東名厚木病院 医長 脊椎外科手術年間100件執刀、外傷手術年700~800件に携わる |
| 2019年 | 日本脊椎脊髄病学会脊椎外科指導医 取得 |
| 2024年~ | 千葉県内 救急病院に入職 |
| 2025年 | 早稲田大学大学院(経営管理研究科:MBA)学位取得 |
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Spine Surgery and Related Research 3巻 2号
発行元 Spine Surgery and Related Research
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